フリーアナウンサーの魚住りえさんとGIの産地をめぐる旅。今回は北海道夕張市の夕張メロンをレポートする。GIとは、農産物のブランド力を向上させ、独自の生産プロセスや地理的な特性によって高い品質を達成している農産物の名称を知的財産として保護する制度だ。すでに、高級ブランドとして全国的に浸透している夕張メロンだが、GI登録によって大きなメリットを感じているという。5月下旬、本格的な収穫シーズン前夜の夕張は、まさに初夏を思わせる日差しが照りつけていた。
(2017年7月31日掲出)

制作:東洋経済企画広告制作チーム
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種を耐火金庫で保管
ブランドを守る強い意志

夕張メロンは、2015年12月、地域の農産物ブランドを国が保護する地理的表示保護制度(GI)に登録された。夕張メロンを名乗る要件がお墨付きを得たことで、ブランド管理に大きな効果を期待している。

魚住 りえさん

慶應義塾大学卒。日本テレビにアナウンサーとして入社。フリーに転身後、ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとしても活躍。著書である『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)がベストセラーに。新刊の『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(東洋経済新報社)もヒット中

晴れ渡った空のもとフリーアナウンサーでスピーチ・デザイナーとして活躍している魚住りえさんを、笑顔で出迎えてくれたJA夕張市代表理事組合長である加藤春之さんは自身もメロン農家を営んでいる。「小学5年のときに父の跡を継いでメロン農家になろうと決心しました」と語る加藤さんは、夕張メロンへの思いも強い。「一般的に、甘さを強調するメロンの糖度は16度ほどですが、夕張メロンは、香り高く果肉がやわらかいために糖度12~13度で甘さを十分感じることができるのです。オレンジ色の果肉も、夕張メロンの特徴の一つです」。

夕張メロンの品種名は「夕張キング」。栽培プロセスのルールから出荷前の検査にいたるまで厳しいガイドラインが示されており、生産者の組合に認められて初めて夕張メロンの種を得ることができる。種を育てるための生産者も限定され、種は耐火金庫で厳重に保管されるほどだ。「夕張メロン」ブランドを守る意思も継承されているのであろう。

5日おきに苗を植えているため、ハウスごとに生育段階が異なる。受粉は蜜蜂で。苗の植え付け方法も一株ごとの間隔が決められているなど、出荷まで厳しいルールを順守している。夕張メロンはスパイシーカンタロープとアールスフェボリットの一代交配種で、種は門外不出だ

17名の有志からつながる
夕張メロンのブランド戦略

加藤 春之

JA夕張市
代表理事組合長

夕張メロンのブランドをつくり向上してきた生産者の組合は、50年以上の歴史を積み重ねている。

「1960年、17名の有志が集い、安定的に収入を得られるような農業を営むために、高い付加価値を発揮するメロンに大きな夢をかけたのです。以来、厳しい時代も乗り切りながら、志をもった仲間たちとつながってきました」

当初、ほとんど地元で消費され、道外に出荷されることは少なった夕張メロンだったが、71年から空輸会社と提携し、産地直送化を推進。さらに地域の炭鉱で働いていた人たちが、閉山によって全国各地に引っ越したことが夕張メロンの名を全国区にする一つのきっかけにもなった。

また、札幌で開催されていたプロ野球の試合でホームラン賞の景品に夕張メロンを提供するなど、認知度拡大を図っていった。魚住さんが「夕張メロンは贈答品としてお贈りしたり、いただいたりする機会があります。皆が知っているブランドなので安心して贈ることができますから」とほほ笑むと、加藤さんも「全国どこに行っても、名刺交換をする度に『あの夕張メロンの』とおっしゃっていただけますね」と受ける。一方で加藤さんは若い生産者の育成にも余念がない。JA夕張市が中心となって若手生産者などを対象に、投資支援などを促進。GI登録を生産体制拡充のきっかけにもしたいと語る。

魚住りえさん ハウス取材後に夕張メロンを堪能する

夕張メロンでは厳格な出荷規格を運用している、重量や糖度、果皮のネット模様などを検査。特秀、秀、優、良それぞれに条件があり、特秀、秀は、その名にふさわしい「品位」も求められている。取材後には魚住さんも夕張メロンをいただいた

JAグループでは「みんなのよい食プロジェクト」を展開している。上のキャラクターはシンボルマークの「笑味ちゃん」。「心と体を支える食の大切さ、国産・地元産の豊かさ、それを生み出す農業の価値を伝え、国産・地元産と日本の農業のファン」を増やすため、さまざまなイベントなどを実施している

「GI登録によって、若い人たちが、ブランドを維持していくという責任の重さを再認識すると同時に、大きな夢と希望を抱くようになりました。これからも若い人が自信を持って誇れる産地にしていきたい。私も若い頃は、親の背中を見ながら、いつかは越えていこうという思いで向き合ってきました。そんな思いを次の世代にバトンタッチしなくてはなりません」

夕張メロンは
楽しく手間がかかる

豊田 英幸

夕張メロン組合
組合長

「ここ数年、地元夕張で結婚式を挙げたカップルが続きました」と豊田さん。「これも夕張メロンのGI効果かも」と笑う。夕張メロンで地域そのものを元気にしたいという気持ちがあるのだろう。若きリーダーが果たす役割も少なくない

次に魚住さんが訪れたのは、夕張メロン組合で組合長を務める豊田英幸さん。メロン農家の3代目、45歳の若きリーダーだ。目の前に拡がる広大な土地の土壌は火山灰。水はけが良く、昼夜の気温差も大きい。収穫は5月下旬から始まり、シーズンは8月下旬まで続く。取材に訪れた5月下旬は、第1弾の収穫が始まったばかり。豊田さんのメロン畑は、55棟のハウスからなる。さらに小さいハウスが10棟あまり。出荷の時期をずらすために3月中旬から6月上旬にかけ、14回に分けて苗を植えていく。

「私の畑では5日おきに苗を植えていますが、苗の状態も玉のなり方も5日しか変わらないのに、まったく違うものになります。その違いを見るだけでも、本当に楽しい。ちょっとした気候の変化がメロンの育ち方に大きな影響を及ぼすのです。楽しいと言いましたが、一方で夕張メロンは多くの手間をかけなくてはなりません。適切なタイミングで適切な手入れをすることでしっかりと育ち、夕張メロンの特徴であるネット模様のかかり方が美しくなっていくのです。ハウスごとに生育段階が異なりますので、気の抜けない毎日を送っています」

魚住さんが訪れたハウスも、苗の状態の畑から収穫のタイミングを待っている段階の畑までさまざま。中にはハウスの中に蜜蜂の巣箱を入れ、受粉中のハウスもあった。「苗から黄色の花が咲く頃、蜜蜂に働いてもらいます。この蜜蜂も鹿児島から養蜂家がやってきてそれぞれの生産者のハウスを回っているのです」と豊田さん。

受粉後、苗から実がなるまでに30日。着果した後は、さらに45日をかけて成熟させていく。もちろん、収穫時期も気が抜けない。豊田さん自身、共撰検査の検査長も兼ねているが、その検査基準も厳しいという。

外観も大切
中身はもっと重要です

「外観も中身もどちらも重要です。お客様に喜んでいただけるよう、検査でのチェックは真剣そのものです」と豊田さん。魚住さんが収穫の目安を訪ねると、「毎日、味見をしながら適切なタイミングを狙っています」と豊田さん。「しっかりと育て、おいしいと言ってもらえる夕張メロンを生産していくことそのものが、一番の醍醐味ですね」と汗をぬぐった。

豊田さんをはじめとする生産者や関係者のたゆまぬ努力の結果、認められたGI登録。夕張メロンのこれからについて、豊田さんは次のように語る。

「GI登録は夕張メロンの57年の歴史が評価された結果だと思います。その意味で、これからも今まで以上に努力していかなくてはなりません。むしろ緊張感は高まっています。これからも工夫を重ね、多くのお客様に提供していける収量をしっかり保っていきたい。いくら夕張メロンと言っても、幻のメロンになってしまっては誰にも食べていただけませんから。夕張メロンの名は知っていても、まだ日本でも夕張メロンを食べたことがないという方もたくさんいらっしゃるでしょう。GIをきっかけに多くの方に味わっていただきたいですね」

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