テクノロジーを“ひと”のために インテリジェント・エンタープライズの時代

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毎年、今後3年~5年でビジネスに最も大きな影響を与えると予想される新たなIT分野のトレンドを発表している「Accenture Technology Vision」。ビジネスのデジタル化をいち早く予見するなど、IT分野の事象を読み解くための重要な指標となっているが、2017年以降のポイントはいったいどこにあるのか。データ分析・人工知能領域のスペシャリストで、アクセンチュア デジタルコンサルティング本部でマネジング・ディレクターを務める保科学世さんに話を聞いた。

制作:東洋経済企画広告制作チーム

AI IS THE NEW UI

2017年以降、ビジネスのデジタル変革は「AI」がポイントに

――Technology Vision 2017は、「テクノロジーを“ひと”のために」とのキーフレーズでまとめられました。Technology Visionはビジネスのデジタル化をいち早く予見し、その重要性を広くシェアしてきましたが、2016年から「ひと」にフォーカスしていますね。

保科 2013年に、今でこそ当たり前になった「すべてのビジネスがデジタルに」という提言を行い、そこから、デジタルネイティブのプレイヤーが既存のビジネス構造を壊していくこと、伝統的な大企業もデジタルの力をつけ、垣根を越えてつながっていくであろうことを予見しました。そして2016年、デジタルというとテクノロジーに目が行きがちななかで、それを活かして「ひとのために何ができるか」を考えなければならない、というテーマに行き着いたのです。2017年はその流れを受け継ぎ、より具体的に、人のためにデジタルは何ができるのか、何をすべきなのか、ということをまとめています。

 ここでいう「ひと」は、顧客と従業員のことです。そのためにテクノロジーをどうコントロールし、どうデザインするか――それが企業にとっての差別化のポイントになっていくだろう、というのが2017年の大きなメッセージですね。

――そのためのポイントが、5つのトレンドとしてまとめられています。まず、近年でバズワードになっている「AI」が鍵になるとのことですね。

保科 トレンド1として、「AIは新しいユーザーインターフェース――『体験』を第一に」とまとめました。AIをめぐる技術は進化を続けており、話題になる機会が増えましたが、単にインテリジェントなアルゴリズムであればいいかというと、決してそうではないと考えています。ポイントは、いかにひとに寄り添い、目標の達成に貢献するか。そして、継続的にひとに寄り添いながら学習し、いわば「テクノロジーの側が人間に合わせていく」ことができるか。人間がAIに合わせるのではなく、AIが自然な形で人々をサポートするように成長していく、ということが重要になるという提言です。常に人に寄り添うことで、AIは“企業の顔”になっていくと考えられます。

保科 学世 氏

保科 学世

アクセンチュア
デジタル コンサルティング本部
アクセンチュア・デジタル・ハブ統括
マネジング・ディレクター

データ分析(アナリティクス)に基づく在庫・補充最適化サービスやレコメンド・エンジンなど、アナリティクスソリューションの新規開発を統括。また、それらをクライアントの業務改革を実現するサービスとして提供する際の責任者として、数多くのプロジェクトに携わる。近年は、AI領域のソリューション開発に注力。理学博士。

――消費者にとってわかりやすい例を挙げていただくと、どんな変化が考えられますか?

保科 データを蓄積しやすいインターネットでのアクセスだけでなく、店舗での買い物やコールセンターへの電話など含め、私たちは多くのチャネルを通して企業と接しています。ただそのなかで、企業はなかなか一貫した顧客体験を提供できていません。例えば、商品に関する問い合わせでコールセンターに電話をしても、実店舗で話した話が伝わっていない、といったケースが大半です。こうした不便は企業側も解消したいと考えており、極端な話をすると、全国民に24時間365日サポート可能な専属のコンシェルジュをつけて、細やかな対応ができたらすばらしいでしょう。

 これは当然ながら、リアルな人間では絶対に無理なことです。しかし、AIなら可能になる。AIは多チャンネルでの情報連携も可能で、また寿命がなく永遠に成長することが可能ですから、家族何代にもわたって付き合えるコンシェルジュになることもできます。突き詰めて考えていくと、このような「AIエージェント」が、企業の顔になっていくのではないかと。

――少し前であれば夢物語だったような顧客サービスが、当たり前になるかもしれない。

保科 そうです。もちろん障壁はあり、例えば「対話」においては、レスポンスタイムが3秒ほどになると違和感が生じ、それだけで顧客体験が台なしになってしまう、というデータがあります。ただそれも、例えば、音声認識でさまざまな生活サポートをする家電デバイス『Amazon Echo』に搭載されたAI「Alexa」においては1秒ほどと、人間との対話も自然にできるようになってきています。またDeep Learning技術の活用により画像から物体を識別する能力についても、人間に追いつき、追い越そうとしている状況です。

 現時点では、AIが実施すべきところと、人間がすべきところを見極める必要もあります。機械はルールを最適化していくことは非常に得意ですが、法規範、社会規範など含め、ルール自体は人間が決めるべきでしょう。さらに、人間の本能に根ざす「共感」、ひとに寄り添うということをどう実現していくかが、最終的な課題になっていくと思います。

 そんななか、多くの企業経営幹部を対象にアクセンチュアが行った調査で、実に79%が「顧客からの情報取得や対話において、AIが革命を起こす」と確信していることがわかりました。AIは、顧客一人ひとりの過去の行動や振る舞いを集約し、最適な選択肢を提供する「キュレーター」、また予測やシミュレーションに基づいて最適な計画を提案する「アドバイザー」、あるいはほかのAI 、デバイスなどとコミュニケーションを行い、複数のチャネルで価値を提供していく「オーケストレーター」など、高度な役割を担っていくと考えられます。

AIの強みとマッチするビジネス・ケース 図1 AIの強みとマッチするビジネス・ケース 図2

AI活用のためのアプローチは、 現時点で人間がすべきところを見極め、 どのように協調させていくかを考えなくてはならない

DESIGN FOR HUMANS

データ利用の透明性を確保し、テクノロジーを“ひと”のために

――関連して、トレンド4には「“ひと”のためのデザイン――新たな行動を喚起する」というテーマが挙げられています。こちらは、まさに今回のビジョンを象徴するものですね。

保科 ここまでの話のまとめにもなりますが、AIの技術ありきではなく、あくまで顧客体験、従業員体験のためのデザインが重要なのだ、ということを強調したいと考えました。モバイルデバイスの利用が拡大し、人々の「振る舞い」を検知するインテリジェントな自動化も進み、また先進的なアナリティクス技術が発達して、申し上げてきたようなパーソナライゼーションが進んでいるからこそ、この観点が重要なのです。AIのコア技術と同様に、CXデザイン、UXデザインを重く考えなければいけません。

――集約した情報をどのように使うか、というところも消費者の関心事、場合によっては懸念点になります。

保科 私も脳波をはじめ、さまざまなデータを記録するデバイスを自ら着け、データを蓄積、分析しながら新しいサービスに活用できないか日々考えています。脳波とまでは言わなくても、今はさまざまなセンサーで生体情報を得ることもできるようになり、そういうものも活用していくと、ある意味で「その人以上に、その人を知る」ということもできます。そうなるとなおさら、データの使い方が重要になる。もっというと、「どういった体験やサービスを提供したいのか」という、データを集める動機の部分をしっかり見なければいけません。サービスを行う側は、データ利用の透明性を保ち、信頼を確立しなければならない。「一人ひとりの振る舞いに合わせて進化するテクノロジーを設計・導入し、そこで得られたデータの安全な利用による価値創出に明確にコミットする」ことの重要性を、このTechnology Visionで発信しています。

アクセンチュア 図

――まさに、今のお話にあった「ひと」と「技術」によるデジタル変革の支援拠点が、保科さんが統括している「アクセンチュア・デジタル・ハブ」(※2016年7月、港区赤坂に設立。今回の取材場所)というわけですね。

保科 そうですね。この拠点は今年のTechnology Vision発表前に設立したものですが、「テクノロジーを“ひと”のために」というビジョンの重要性を感じていたからこそ、設立された施設です。外部パートナーが有するものも含め、世界中から優れた技術やアイデアを集約する場所ですが、アクセンチュアにおいても、「データサイエンティスト」といわれるAIおよびデータ分析の専門家と、CX、UXのデザイナーが主にここを拠点にしています。他社だと、アナリティクスのコアのアルゴリズムを作っている人は研究所にいて、デザイナーはデザインセンターにいて……と、直接的に交流がないことも多いのですが、ひとつの場所に集めました。ご覧いただいているように、空間デザインの上でも「右脳と左脳の融合」がコンセプトになっています。トレンド1(AIは新しいユーザーインターフェース 『体験』を第一に)、トレンド4(“ひと”のためのデザイン)を具現化するための拠点ともいえますし、オープンイノベーションの取り組みを通じて、デジタル変革をスピーディに推進していきたいですね。

Accenture Technology Vision2017 5つのトレンド

AI IS THE NEW UI 「AIは新しいユーザーインターフェース 体験」を第一に」

企業にとっての“デジタル・スポークスマン”になりつつあるAI。それはあらゆるインターフェースをよりシンプルでスマートなものに進化させ、企業のデジタル・ブランドの顔になり、重要な差別化要因として機能すると考えられる。

ECO SYSTEM POWER PLAYS 無限の可能性を持つエコシステム プラットフォームの先へ

中核的な業務を第三者やそのプラットフォームと統合する企業がますます増加していくと考えられる。それは昔ながらのパートナーシップではなく、新たなデジタル・エコシステムのなかで役割を確立し、新たな成長戦略をもたらすものに。

WORK FORCE MARKET PLACE 未来を創造する人材のマーケットプレイス

需要に応じて利用できる人材プラットフォームやオンラインの業務監視ソリューションが進化を遂げ、古い労働モデルやヒエラルキーは消滅。オープンな人材市場が、企業の迅速なイノベーションと組織変革のカギを握る。

DESIGN FOR HUMANS “ひと”のためのデザイン 新たな行動を喚起する

テクノロジーは今、人と機械の効果的な協働を阻むギャップを縮めつつある。顧客や従業員、一人ひとりの行動を考慮することで、体験の質をさらに高め、かつテクノロジー・ソリューションの有効性を向上。より価値のあるパートナーシップへと転換させつつある。

THE UN CHARTED 未踏の領域へ 新しい産業と標準の創出

エコシステムによって運営されるデジタル経済には、まだ明確なルールが定義されていない新たなルールの形成を牽引できる企業が、新たなエコシステムのなかで中核的なポジションを獲得し、他社と差を広げていくと考えらえられる。

Accenture Technology Visionの取り組み

アクセンチュアは、「今後3年から5年のうちに企業、政府機関、およびその他の機関に最も大きな影響を及ぼすと予想される新たなIT分野の事象」を毎年特定し、レポートしてまとめている。

2017年版の調査は2016年11月~2017年1月、31か国5400名超のビジネスリーダー・ITリーダーを対象に、ビジネスにおけるテクノロジーの影響に対する見解や、今後数年のテクノロジー戦略/優先投資事項などについて聞き取りを行った上でまとめられた。