東洋経済企画広告制作チーム/アクセンチュア
今、世界的に重要視されているインクルージョンというワード。多様な人材(ダイバーシティ)と、組織として多様性を尊重し、個人と企業のさらなる成長を目指すインクルージョンという発想は、企業の価値を高め、成長の鍵になる両輪だ。アクセンチュアは10年以上前からこの取り組みを行っているが、2015年、江川昌史社長が就任してから劇的に変革が加速した。
変革をより加速させるため、同社は2016年に「アクセンチュア・インクルージョン&ダイバーシティ・アドバイザリー・ボード」を設立。これは同社だけでなく識者本人たちにも大きなヒントとなり、壮大で不可欠なテーマに全員が向き合うことで、あらたな気づきを自身や日本社会に投げかけることが目的だ。
さる2月10日、アドバイザリー・ボードが開催された。この日は議長の志賀俊之氏(日産自動車 取締役副会長)をはじめとするボードメンバーと、江川昌史社長以下アクセンチュアの経営陣がまさに輪となり、インクルージョン&ダイバーシティについて議論が交わされた。
多くの論客を前に、アクセンチュアの執行役員でインクルージョン&ダイバーシティ統括の堀江章子氏は同社の取り組みについて報告した。
多様なバックグラウンドの社員が集まることで競争力につながるという考え方に基づき、同社は2006年から取り組み始め、〈ジェンダー(女性)〉〈クロスカルチャー(外国人)〉〈LGBT〉〈障がい者〉という4領域で活動を展開している。当初はジェンダー領域で課題認識からはじめ、将来の出産・育児への不安やロールモデル不足などの課題に向き合う形で、育児制度改定や国際女性デーイベントを実施。その結果、男女ともに育児制度の利用率が上昇し、女性の満足度や継続意欲が向上したという。次に女性管理職の増加を目指し、役職別の教育研修や啓もう活動を行う一方で、女性管理職候補にスポンサーをつけるなど、個々人の成長に見合った形で昇進できる機会を与える仕組みを導入。そして現在は、男女共通の課題でもある時間制約社員のキャリア構築についても取り組み、在宅勤務制度の全社拡充や短日・短時間勤務制度、またワーキング・ペアレンツを支援する制度なども続々と実施している。管理職以上にはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を取り除くトレーニングの受講を義務づけたこともあり、全社的に多様性を受け入れる雰囲気が醸成され、社内環境は大きく改善したという。数値で見ても、社員に占める女性の比率や女性管理職の比率も上昇している。
続いてクロスカルチャーの領域では、2013年にJapan Cross Culture Committeeが発足し、部門を超えて社員同士のリアルな交流機会を提供できていること、障がい者の領域では毎年のイベントでのネットワーキングだけでなく、パラアスリートの活動支援も行っていることなどが共有された。
LGBTの領域では、婚姻関係にある社員とその配偶者に適応している人事福利厚生制度の一部を、LGBT社員とそのライフパートナーにも適用。2016年には、健康診断費用の負担や生命保険の相続受取人指定など金銭的補助まで拡大し、社内のアライ(ally—賛同者)を社員の一割(2月当時約700人)にするという目標を掲げて、活動を活発化させているという。
アクセンチュアはここまで多くの試みを実施し、ある程度の成果が見えている状態ではあるが、まだ満足していない。本ボードの議長を務める志賀氏は「カルロス(ゴーン会長)も言う。車の購入決定者の過半(数)が女性。今の時代、イノベーションはダイバーシティなしには生まれないというのが大前提。多様なバックグラウンドを持つ人材がコラボレーションすることが企業の競争力強化につながるんだという実例を、アクセンチュアにはもっと見せてほしい」と述べた。
アクセンチュア株式会社
執行役員
インクルージョン&
ダイバーシティ統括堀江 章子
さらに志賀氏は、日産自動車でダイバーシティに取り組んでいる経験をもとに問題を提起した。
「日産自動車でも多くの取り組みが実施されていますが、まだ道半ば。日本企業でダイバーシティをとりまく環境で大きな壁だと思われる3つの問題について議論を深めたい」
その問題とは、まず協調性重視の日本社会での個性のいかし方、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)、そして、100年ともいわれる人生の多様なステージにおける従業員への企業サポートのあり方という3つの壁だ。どれもまだ多くの課題を内包しており、突出して実行できている企業はない。
本ボードのスポンサーをしているアクセンチュアのカミーユ・ミアショークライ氏もまた、「多様な人材がコラボレーションする際に誰もが避けられないのは無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)。無意識の偏見に対抗するには、意識的な発信をするインフルエンサー(影響力を持つ個人)の活用を検討できないか。意識的かつ継続的な発信により、今後も社内の文化をより良く変え、さらにクライアントにもそれを伝えていきたい」と問題を提起。
それに呼応し、グッド・エイジング・エールズ 代表の松中権氏は「インフルエンサーの見える化や社外とのネットワークは、まさにLGBTの領域で課題になっているところです。LGBTの問題でまず難しいのは、当事者が表に出てきづらいところなので、会社組織の外に少しずつロールモデルが増えている流れが、いずれ社内にもどってくるかたちになればと思っています。一対一の信頼関係がベースではありますが、アライの存在などが不安をとりのぞく空気づくりに寄与すると思います」と述べた。
また、多くの企業との接点を持ち、働き方改革の現場に身をおく小室淑恵氏(ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)が日本の現状を指摘する。
「900社以上のコンサルティングで気づいたのは、日本人がダイバーシティに理解がないというよりも、事実上機能しない働き方をしているということです。24時間、誰かの犠牲のうえで会社に身を捧げるという特殊な文化。人に対して排除や差別を考えるまえに、自分に課さざるをえないストイックな環境を他人にも求めてしまうという、土台の問題なのです」
同氏は産業競争力会議の民間議員でもある。ダイバーシティへの意識にはまず働き方の改革が前提とし、「働き方改革担当大臣が生まれ、直下に会議もつくられた。改革のスピードもあがった。すると一部の抵抗勢力から労働時間短縮に反対意見が出る。それでも空気が変わりうねりが起きているのは事実です。経産省主導で実施されたプレミアムフライデーなどはその象徴ともいえる動きで、労働時間の抑制が経済活性につながるという今までとは逆の発想がでてきています」と期待をのぞかせる。
また、志賀氏の投げかけに小林りん氏(インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢 代表理事)が事例を示した。「今年1月のダボス会議ではダイバーシティとインクルージョンがとても大きな関心事でした。ブレグジットや米大統領戦の影響もあるでしょう。世界的に大きな動きです。そもそもダイバーシティは机上で教わるものではなく、体感できる場が必要です。たとえば日本企業の方が海外赴任されたときに、現地の同業他社の経営幹部に大変多くの女性がいる現実に驚く。そういうことを目の当たりにして、初めてバイアスがなくなるのではないでしょうか」と身近な事実からの気づきを促す。
さらにフィンランド出身であり日本でスタートアップ企業イベントの会社Slush Tokyoを率いるアンティ・ソンニネン氏は「ダイバーシティはツールであり、国や企業の競争力が高まる」と指摘。また、フィンランドでは2000年に初めて女性大統領が誕生したことを紹介。米国のオバマ前大統領のことも例に引きながら「女性は難しい仕事ができないと思い込んでいる人をどうすれば変えられるのか。フィンランドでは女性は大統領になれないと思い込んでいる人が大きく減少し、米国では黒人が大統領になれないという人がいなくなった。そういうロールモデルがいるといい」と彼自身もまた体験を核とする持論を展開する。
志賀氏は重ねて「日産自動車では、いわゆるバリキャリの女性だけでなく、より多くの女性が自分ごととして感じやすい、比較的一般的な女性社員を管理職に登用する試みを実施した。これもひとつのロールモデルとなり、成果も出ている」と語り、この施策の周囲の反響の大きさを紹介した。
日産自動車株式会社
取締役副会長志賀 俊之
アクセンチュア
リーダーシップ開発&
サクセッション・プランニング 統括 兼
成長市場 成長戦略 統括
マネジング・ディレクターカミーユ・ミアショークライ
Slush Tokyo CEOアンティ・ソンニネン
話は別の視点へも広がった。それはインクルージョンの基盤、ダイバーシティの発想は、学びにあるのではないかという流れだ。志賀氏は日産の現状を引き合いに出しこう語る。
「日産で苦労している点のひとつとして社の根幹をなすエンジニア部門に女性管理職が少ない点があります。脈々と続く男性職種だった歴史的な理由もあります。文科省にも提言しましたが、理系女子自体の少なさ。これは昔からあるアンコンシャスバイアスの現れかもしれません」
教育といえば小林氏の専門である。「多国籍の高校生たちのなかにも、アンコンシャスバイアスは感じられます。しかしそれはバイアスというよりパースペクティブ(視点)が違うという印象。一緒に学ぶなかで自分以外の視点を共有してくれることを理解をしているのです。日本語の『変わってるよね』のニュアンスと違い、英語の『She is different.』は褒め言葉。根底の価値観がちがう。これも机上じゃなく実体験で知ることですね」
さらに小室氏は、「寝ないで勉強したに代表される妙な成功体験。これが大人になっても先に述べた悪しきストイックな労働につながるんです。オランダでは小学校から時間割を自分で決め、時間を管理させるところもある。今後は小中高の層へ〈そうじゃないんだよ〉と指導する機会があっても面白いんじゃないでしょうか」
アクセンチュアの堀江氏は「時間自律性は面白い視点。すでにグローバル教育など手がけているものもありますが、これから必要になる視点は取り入れてやっていきたい」と前向きにとらえていた。
学校法人インターナショナル
スクール・オブ・アジア軽井沢
代表理事小林 りん
議論の後半は、働き方改革にテーマを変えて議論が進められた。まずアクセンチュアの江川社長が同社の取り組みについて報告した。
同社は2年ほど前まで長時間労働が当たり前の会社だった。その評判が社会にも広まり、リクルーティング企業から「アクセンチュアに人材を紹介しにくい」と指摘された江川氏が、「絶対変えてやる」と決断したのがそもそものきっかけだったという。
改革のため同社は組織風土改革〈プロジェクト・プライド〉を立ち上げ、すべての社員がプロフェッショナルとしてのあり方に自信と誇りを持ち、顧客やパートナー企業、競合企業、地域社会、社員の家族からも尊敬される企業にすることを目指している。まず基本的なビジネスマナーの浸透から生産性の向上まで、各事業本部のリーダー、各部署のリーダーを巻き込んでいきながら方向性を提示し、文字通り江川社長が陣頭指揮に立って改革プログラムを実行していった。
「当初はなかなか理解しない人もいた。また改革を阻害する仕組みもひとつひとつ変えていった。昨年は人事を中心に23の仕組みを変え、例えば18時以降は上司から提案する会議は原則禁止にした。また、生産性の高い社員に報いるために評価制度も変え、パフォーマンスに応じた給与体制にした」という。
一方で生産性向上やコミュニケーション促進につながるツールも積極的に導入。成功事例や社員の声などを定期的に発信したり、イベントやキャンペーンを行ったりして新しい文化・風土の定着を図っていった。その結果、社員の残業時間は大幅に減り、有給休暇の取得率は増加。「家族などの大切な人への感謝を伝えるキャンペーンを行ったら、約1000通のメッセージが集まった。このメッセージを見たときは涙が出た」と江川氏は振り返った。
アクセンチュア株式会社
代表取締役社長江川 昌史
小林氏は「アクセンチュアの本気の取り組みはインクルージョン&ダイバーシティのムーブメントの核になりうるでしょう。冒頭の志賀さんの問題提起にもありましたが、働き方改革が進むと学び方も変わります。人生100年というスケールのなかで80歳まで働く時代になってくると学びは一度ではないし、人生そのものが変わります。日本の学校現場は長時間労働がはびこっているけれど。そういうところの改革もアクセンチュアとともに取り組んでいけたら」と期待を表明した。
また、「クライアントが早く帰ることを許さなかったらどうするのか」という志賀氏の問いに対しては、「改革を始めた頃はクライアントになかなかご理解いただけないこともあったが、それで仕事がなくなるのであれば、そういうお客様とは付き合ってはいけないのだと覚悟もした。ただ、政府が働き方改革を進めたので、去年からは劇的に潮目が変わった」と江川社長は語った。
小室氏は、「アクセンチュアが働き方改革に取り組むと聞いて、正直はじめはどこまで本気なのか、と思っていた。ここまで徹底しているのは素晴らしいが、その成果をもっとわかりやすい形で発信してほしい。長時間労働を肯定する経営者がまだいるが、そういう人にこそ、潮目が変わったという感覚もあわせて共有させていってほしい。また、海外では『カロウシ』という日本語がそのまま使われ、日本で働いてはいけないとさえ言われている。そういうイメージを払しょくするために海外に向けての情報発信は重要」と語った。
松中氏は、いろいろな関係者と協力して仕事を進めている企業がこういう改革をすると、結局下請けにしわ寄せがいくだけのこともあると指摘。さらに「それ自体、悪いことではないが、クライアントファーストという意識が染みついていて、つい無理な働き方をしてしまう。自分も含めて働く人の意識が変わらないと、企業の改革も進まない」とした。また、ダイバーシティも働き方改革も教育現場に行きつく。企業と教育現場の連携が必要だし、教育現場が変わっていくことが必要」という考え方を示した。
最後に志賀氏は、第4次産業革命による生産性の向上が大企業では進んでいるが、中小企業や学校、医療の現場では進んでいないと指摘。「アクセンチュアには中小企業向けの第4次産業革命をリードしてほしい」「昨今のAI論は一義的だし、教養とか心の豊かさといった、より人間的なものが社会から求められるようになるのではないか」と語った。そして「地方の子供たちは残りたくても仕事がない。地方の学生が地方で仕事をするのが当たり前の社会にしないといけない。仕事がないからといって、若い人が合計特殊出生率1.15の東京に移るのでは、日本の人口は増えない」と警鐘を鳴らす。
約3時間にわたり様々な視点が披露されたアドバイザリー・ボード。アクセンチュア側の出席者からも「女性の活躍促進ではお客様から実際に相談をいただくこともあるが、今後は働き方改革まで提案していきたい(マネジング・ディレクター 小林珠恵氏)」や「今後は社会に対してどういうインパクトを与えられるか。企業の枠を超えて、一社会人としてより広い視点を持って取り組んでいきたい(マネジング・ディレクター 河田博孝氏)」、「大手だけでなく、中小企業も含めて日本の業界全体を底上げできるようなサービスを提供していきたい(マネジング・ディレクター 秦純子氏)」などの声が聞かれた。どの取り組みも社内に閉じることなく、広く社会に還元していくーーアクセンチュアのこれからの課題が浮き彫りになった。
企業が多様性をもって変革するときに、それは大きな痛みをもつかもしれない。しかし、多くの人が視点を変える、あらたな視点を持つことで、力強い流れを生み出すかもしれない。それは実体験であり、学びである。またそれをメッセージで発信することで連鎖する。これからの日本に光が差す内容となった。
株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役社長小室 淑恵
認定NPO法人
グッド・エイジング・エールズ
代表松中 権
世界で40万1000人以上、日本では約7800人を抱えるアクセンチュア。日本では、下記の4領域で活動を推進してきた。
WOMEN
(GENDER DIVERSITY)CROSS-CULTURAL
DIVERSITYLGBT
PERSON WITH
DISABILITIES
そしてアクセンチュアは2015年より組織風土改革〈プロジェクト・プライド〉を立ち上げ、働き方改革にとどまらない従業員のプロフェッショナル意識の醸成に取り組んでいる。社内の調査では、「劇的に働く環境が改善された」「管理職レベルでも生産性向上の改善意識がついてきた」など、一定の成果がみえるようになってきたという。今年は、さらに働き方の多様化と風土改革、人材の育成、社内の仕組みとテクノロジーの活用を深め、Work smartと呼べる環境にまで進歩を目指していく。