野村総合研究所
上級研究員
城田 真琴氏
ビジネスにおいて、ITはいまやなくてはならない存在となっている。業種や職種を問わず、あらゆるビジネスがITに強く依存する時代になったと言い換えてもよいだろう。たとえばコミュニケーションツールとしてのメール、あるいは売上・予算を管理する業務システムなどは、使っていない企業を探すほうがはるかに難しい。それだけ身近な存在となったITだが、さらにその利活用が企業競争力を左右するまでになりつつある。
大手シンクタンクである野村総合研究所のITアナリストとして先端技術の動向を調査・分析し、数々の企業にIT戦略を提言している城田 真琴氏は、企業のIT利活用状況について次のように話す。
「まず経営者の間ではモバイルが非常に重要になってきています。スマートフォンやタブレットの普及によって経営者自身がそれらのモバイル端末を経営判断に活用したいと考え、トップダウンで導入が進んでいます。これまでは会社のPCを見なければ状況を把握できず、重要な意思決定をするのにもタイムラグが発生していました。それがモバイルを利活用すれば、外出先からでも即座に意思決定を行うことができます。このようにいつでもどこからでもコミュニケーションがとれるという点で経営者の重要なツールとなりつつあるモバイルですが、営業・マーケティング部門にとっても同様です。たとえば従来は会社に戻ってから営業日報を入力しなければならなかったのが、モバイルを使えば商談後すぐに報告業務を行えます」
もう一つ、企業のIT利活用に大きな影響をもたらしたのがクラウドだ。
「SFA(営業支援)やCRM(顧客管理)などを推進するため、営業・マーケティング部門を中心にクラウドサービスの利用が急速に普及しています。クラウドの特徴はすぐに導入できること。これまではITインフラを調達するのに非常に時間がかかっていましたが、クラウドならば契約してすぐに使える状態となります。また最近では、管理・間接部門でも人事管理などにクラウドサービスが使われています。業務部門を問わず、クラウドは非常に重要なツールとなっています」
さらに最近は、生産・物流・保守サービス部門を中心にIoT(Internet of Things=モノのインターネット)が注目されている。IoTとは、さまざまな装置のセンサーやモバイル端末などの“モノ”がインターネット上のクラウドに接続、相互に情報交換することで自動的に制御する仕組みのことだ。
ビジネスのさまざまな場面でITが利活用されるなか、ビジネスの現場を指揮し、牽引する立場にあるビジネスリーダーは、必ずしもITを理解しているわけではない。これは、ビジネスリーダーにとって大きな課題である。
「ビジネスリーダーの一部は新しい技術に対して拒否反応を示し、思考停止に陥ることがあります。わからないから導入しないという人もいます。いまの時代、そういうビジネスリーダーが尊敬されることはありません。若い部下はモバイルにせよクラウドにせよ、ITを使いこなしています。これからのビジネスリーダーは新しい技術に積極的に取り組まなければ、間違いなく時代に取り残されていきます。競合他社はすでにITの利活用を積極的に進めています。ITを使わないことによって競争劣位になる可能性が高まっているのです。これは大きな課題です」
もちろん、現場で仕事をしながら新しい技術の理解を深めるのは大変なことだ。だが、それを放置しておくと、企業全体のマイナス面が大きくなっていくと城田氏は言う。
「ビジネスリーダーがITの知識を持たず、ITの利活用に取り組まなければ、企業全体の競争力低下を招くというリスクがあることを認識すべきです。ただしビジネスリーダーに必要なのは、ITに関する詳細な知識ではありません。最も重要な素養は企画力、つまりこういうITの利活用をすればビジネスがうまくいくのではないか、あるいは新しいビジネスが生まれるのではないかといった、ITの利活用から生まれる“企画”を考える力です」
では、ビジネスリーダーはどのようにITのリテラシーを身につけていけばよいのだろうか ―― 。