“Twitterを通して顧客とつながり、顧客にきちんと向き合うのはキモチいい 〜「新興メーカーの挑戦」から学ぶ、これからの企業コミュニケーション。〜”

興味・関心でセグメントできるから、より確実なアプローチが可能に

 Twitterをビジネスで活用することを考えた時、特に重要なことは、「興味・関心」でつながっているという特性だ。「興味・関心」が同じ、もしくは似たようなユーザーをターゲットとして広告を配信することが可能になる。広告はツイートと同じ形式を取るので、自然な形でユーザーに届き、より多くの対話やリツイートを生み出すことも、大きな特徴である。


 [Case Study:アンカー・ジャパン株式会社]
 モバイルバッテリーをはじめデジタルライフを便利にする製品を自社開発し、世界中で販売しているブランド「Anker」。その日本法人であるアンカー・ジャパン株式会社は、2013年1月に設立したばかりの少数精鋭部隊。主な販路はアマゾンや楽天だ。マーケティング専任の担当者はおらず、大規模なプロモーションを立案し、実行することは非常に困難な状況だった。そこにある事件が起きた。

 「ある有力なブロガー様が、私どもの製品をとてもポジティブな内容でご自身のブログに取り上げていただいたことをきっかけにして、翌日にはアマゾンで売上ランキング1位になりました。そこで、オンラインでの口コミやバズが起こることで、実売につながるのではないかという仮説を持ちました」と、アンカー・ジャパン株式会社 代表取締役である井戸 義経氏は当時を振り返る。

 「口コミは偶発的に起こるものですから、私たちは待つしかありません。そんな他力本願な方法ではなく、自らの手で積極的に口コミを起こしていくことができないかと考えた時、そこにTwitterとその広告ソリューションがありました。」(井戸氏)。

9日間の広告配信で1万人に迫る数のフォロワーを獲得

 アンカー・ジャパン株式会社の取り組みを見てみよう。まずは、マーケティングキャンペーンを実施するうえで、そのゴールを明確にした。それはAnkerブランドのブランド認知度の向上と、お客様からのリアルな声を吸い上げるための継続的な関係の基礎を築くことであった。

 同社は10月初旬にTwitterのアカウント(@Anker_JP)を開設。初ツイートは「Ankerの日本公式アカウントを開設しました!これから新製品やお得なセール情報などをお知らせしていきたいと思います。・・・よろしくお願いします。」という、社長の井戸氏自身によるものであった。

 その次には、ターゲットの絞り込みを行った。「本番前にいくつかのアイデアをテストしました」(井戸氏)。当初考えたターゲット層は次の5つ。1)就活時期の学生、2)デジタルガジェット好きな人、3)ソーシャルゲームユーザー(スマホのヘビーユーザー)、4)携帯充電器について検索している人、5)スマホのバッテリーの持ちに不満をもっている人。どのターゲットに向けてツイート(つぶやき)を配信すれば効果的にリツイートが生まれ、フォロワーが増えるのか? それぞれセグメント別に検証していった。

 冒頭でも触れたように、Twitterでは、「興味・関心」を軸に、様々なトピックについての会話が繰り広げられている。そうした中で、効率的にターゲット層を絞り込むために、キーワードターゲティングやインタレストターゲティングなど複数のターゲティング手法を利用し、効率的な検証が可能だった。実際、5つのターゲット層の内、ソーシャルゲームユーザーとスマホのバッテリーの持ちに不満をもっている人は反応が他に比べて弱く、次のテストや本番に向けてのターゲットから外したという。

 ターゲットを設定できたところで、短期間で成果を挙げるためにプレゼントキャンペーンを計画。プレゼントの内容や告知のキャッチフレーズやビジュアルといったクリエイティブ表現の仮説検証も行われた。

 「弊社の潜在顧客層には、どのようなプロモーションが響くのかを小規模なテストで試しました。結果的にプレゼントの内容は、小さいものを多くの方に贈るよりも、大きなものを1人に贈った方が、反響が大きいということが非常に明確に出ました」(井戸氏)。
リツイート
キャンペーンに応募して、当たった50個の充電器を受け取ったユーザーのツイートをアンカー社がリツイートしたところ
 クリエイティブ表現では、「モバイルバッテリー」と「携帯用充電器」での違いといったことまで検証している。実はこの2つには、意外にも全く広告の効果に差がなかったという。

 このようにTwitterのプラットフォームを活用することで、リアルタイムに小さな規模でのテストが可能であり、本番に向けての仮説検証を短期間で実施することができた。そして、仮説検証によって導いたターゲット、コピー、プレゼント内容を使い、Twitterの「プロモツイート」という広告商品を本格的に使って本番のキャンペーンを展開した。

 「数回のテストから、弊社に興味を持っていただける層を特定でき、集中的にプロモーションやプレゼントキャンペーンを実施しました。その結果、合計9日間の配信で1万人に迫る数のフォロワーベースを獲得することができました。この数は、日本のメーカーのトップ100に入るフォロワー数です」(井戸氏)。

 テストで用いた費用約50万円、本番キャンペーンの費用は150万円。テスト開始から本番終了までの期間は約2ヶ月。フォロワーの獲得単価は標準的であるが、フォロワーベース構築のスピードとレベルは驚異的である。

新製品のネーミング。フォロワーに聞き、その意見に添う

 最初の思惑通り、アンカーではフォロワーを重要な経営資源として活用する試みが始まっている。キャンペーン実施後、約1万人のフォロワーの皆さんにアンケートを行い、新製品のネーミングの開発に役立てたのである。

 「新しく開発した機能を搭載した製品の発売に向けて、全世界でネーミングに関する調査を行いました。日本では、Twitter上の今回のキャンペーンで獲得したフォロワーに呼びかけたところ、翌日には数百件の回答を得ました。結果として、日本で1位になったネーミングが、世界共通のものとして採用されました。改めてTwitterの強力さを思い知りました。一連の活動で、マーケティングに対する考え方が根底から変わりました」と、井戸氏は語る。

 フォロワーとの良質な関係を継続していく中で、カスタマーサポートを担当している及川 美佳さんは、仕事に対する新しい考えが浮かんだと言う。

 「アンカーはお客様からの声を真摯に受け止めて、製品に反映させていく会社です。Twitterのお客様からのリクエストやアイデアを、私がもっと拾い上げて本社の開発に伝えることで、よりよい製品を作っていくことができたらいいなと考えています。そのためにも、Twitterとは、今後も永くお付き合いさせていただきたいと思っています」

Twitterをビジネスで活用する際の誤解と注意点

 そのような効果を実感したいが、何からはじめたらいいのか…。そんな方は、まずはTwitterのアカウントの作成からはじめたい。完了したら、Twitterの中ではどのような会話が交わされているかを知っておくことも重要だ。たとえば、競合他社の内容を確認することで、自社の方向性も明確になっていくに違いない。

 Twitterのマーケティングは、大きな会社で組織的に展開しなければならないと考えている方もいることだろう。しかし、決して大企業でなければ実施できない活動ではないことは、今回のケースを見ても明らかになったはずだ。

 炎上リスクなどを気にして、二の足を踏んでいる方もいるかもしれない。アンカー・ジャパンの井戸氏の言を引こう。「ツイート、それは面と向かってお客様に話しかけるような感覚です。であれば、普段通り真摯に向き合い、マナーを持って誠実にコミュニケーションをする。当たり前のことですし、それができていれば心配することはないです」。井戸氏はさらにこう続ける。「Twitterを通してお客様と向き合うことで背筋が伸びる思いです。それはとても清々しいことです」。

 しかし、Twitterをビジネスに活用するうえで、いくつか注意点があるので参考にして欲しい。まず、広報部が発信するプレスリリースをそのままツイートするだけといったケースだ。企業からの一方通行の文面では、ユーザーとの有意義な対話は生まれない。Twitterのプラットフォームは、ユーザーの会話を中心に構成されている。ユーザーとの対話を実現するためには、ぜひ、目線をユーザーに合わせることからはじめてみたい。また、Twitter活用を一過性で終わらせない心構えも重要になってくる。例えば、キャンペーン時だけ積極的にツイートすることは、決しておすすめできない例だ。

 人間関係における一対一の会話と同様に、 Twitter上での企業とユーザーとの関係は、継続的なコミュニケーションをすることで、より強い関係 (エンゲージメント)を築くことができる。そうした継続的な取り組みがあり、その関係性の上でTwitterの広告商品を活用することで、より効果の高いマーケティングプラットフォームとして機能するのである。

 繰り返しになるが、Twitterはリアルタイムで、オープンな、会話を中心としたコミュニケーションプラットフォームである。そうした 特性を活かすことで、ビジネスの規模や社員数、業種、業態などに関係なく、あらゆるビジネスの強い味方になるものだ。小規模でスピーディーな検証や積極的なプロモーション戦略を展開できるTwitterを、今後のマーケティング戦略のひとつに加え、あなただけのアイデアを実行に移してみるのはいかがだろうか。