シャネルからLPレコードが届けられた。黒いはずの音盤は、真っ白。これは、シャネルが2003年に、初めて真っ白な腕時計「J12 ホワイト」を全世界に発表してから10年がたったことを思い起こさせる。記念の年に発表された新作時計は「J12 ファーズ ドゥ リュヌ」。白いLPは、その報道資料だったのだ。

ファーズ ドゥ リュヌとは、一般にはムーンフェイズと呼ばれる、月の位相を表示する機能。このウォッチでは満月と新月、上弦と下弦の月が文字盤にデザインされ、古い懐中時計を思わせる優美な針が、満月や新月を指し示す。この針は月が地球を公転する周期、27日7時間43分11.51秒で一周する。

今日の夜空の月の形を表示する、夢あふれる時計。今回の新作は、シャネルでは初のファーズ ドゥ リュヌになる。オパールホワイトの文字盤、宝石をちりばめたようなアベンチュリンガラスの夜空。スイスで仕立てられる本格機械式時計とあって、月の公転周期をオペレートするのは、精密に組み立てられた機械だ。クォーツのように電池交換がいらない、エコな時計でもある。

ネオンの輝くシャンゼリゼで夜空を見上げたというマドモアゼル ココ シャネルは、社会に出て働き始めた20世紀の女性たちの旗手だった。そのマドモアゼルが生涯愛した白 ─。

白がどれほどエレガントで、生き生きと知的に輝くのか、それを描き出したシャネルの貴重なムービーがある。時計の全容は、ムービーでじっくりと味わってほしい。

文: 本間恵子（時計ジャーナリスト）