早稲田大政治経済学部卒。1988年ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社東京支店入社。25年にわたり一貫して投資銀行部門でグローバルな資金調達、M&A 、ソリューション業務を手掛ける。2010年より現職。
福島 投資銀行業務を取り巻く環境やトレンドをどうご覧になりますか。
渡邊 2008年のリーマン・ショックの教訓として金融機関のリスク規制に関する議論が盛んです。世界各国の規制当局の基本スタンスは、資本の「質」を重視し、金融機関の業務に関わるリスクを厳密に分析・管理しようというものです。
過大なリスクを避けつつ、いかに収益を確保するか。多くの投資銀行がこの命題に対する適切な答えを模索している最中といえるでしょう。
福島 金融危機を経た現在の方針はどのようなものですか。
渡邊 UBSグループは2012年秋に「クライアント・セントリック(顧客中心主義)」という戦略に沿って組織改定を行いました。自らのリスク・アセットを使って収益を上げるのではなく、「お客様のための投資銀行」という投資銀行業務の原点に回帰するものです。
投資銀行本部で注力する具体的な業務内容としては、企業の財務戦略や経営戦略のアドバイス、M&Aアドバイザリー、株式・債券の引受や発行などによる資金調達支援などが挙げられます。
福島 他社との競合が厳しくなるのでは。
渡邊 おっしゃるとおりです。各社同様の戦略を採ることが予想されるので、投資銀行としての差別化を一段と図る必要があるでしょう。
UBSの最大の強みは世界トップクラスの実力を誇る投資銀行、ウェルス・マネジメント、アセット・マネジメントを核とし、世界中の多様な企業、機関投資家や富裕層にアクセス可能な、グローバルで強固なプラットフォームを有していることです。多様な投資家層と市場へのアクセスを有することを活かし、資本調達に関するアドバイスやバランス・シートの再構築など、「お客様のための投資銀行」として独自のアイディアに基づいた総合的なソリューションを提供していきます。
NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や『サンデー毎日』での連載対談など500人を超える経営者を取材。企業の社外取締役、経営アドバイザーも務める。
福島 銀行・保険など金融法人のお客さまへのサービスについてはいかがですか。
渡邊 国際的な銀行は新しい自己資本規制「バーゼル3」への対応に取り組んでいますが、UBSの本拠地スイスの金融規制はバーゼル3よりも厳しいのです。私たちは特に厳しいスイスの金融規制に対応してきた自らの経験に基づき、日本の金融機関にアドバイスや資本政策の提案を行っていきます。
前ドイツ連邦銀行総裁で現在はUBS会長のアクセル・ウェーバーは「スイスやドイツと日本では、ビジネス文化において共通点が多い」と述べています。金融立国で磨いたアイディアを、日本のお客様のニーズに沿ってご提供しています。
福島 自らの経験に基づくアドバイスですから説得力がありますね。
他にはどのような分野に力を入れていく方針ですか。
渡邊 いくつかありますが、原点回帰ということではUBSの前身のSGウォーバーグから脈々と受け継がれるエクイティ・ハウスとしての伝統を活かし、公共機関の民営化、企業の株式発行やブロック・トレードなどに注力しています。
不動産分野においてUBSは、J-REIT市場の創成期から携わっており、フロントランナーとして確固たる地位を築いています。新規株式公開や引受の実績も豊富です。不動産市場の回復期待に伴いJ-REIT市場が活況です。J-REITの成長戦略、活発化しているJ-REITへの投資意欲に、発行市場・流通市場を通じ、応えていくことにより、J-REIT市場のより一層の発展に貢献していきたいと思います。
外国為替業務も重視しています。グローバルに高いマーケット・シェアを有しているUBSは、多様な通貨のスポット、先物、オプションなど総合的為替資金サービスを提供しています。充実した外国為替機能は、日本企業が外国企業を買収するM&Aでもスムーズな案件成立をサポートする要因と成り得ます。
富裕層向けサービスで世界トップクラスの実力を誇るグループのアドバンテージを活かし、例えば日本企業がアジア新興国で認知度を高めたい場合は同地域の機関投資家のみならず、ウェルス・マネジメントの顧客である個人の資本家にもアクセスしていきます。アジアや中東、南米などのマネーを企業成長に取り込むことが可能です。