中国「違法ワクチン」、幼児の体に起きた悲劇 人命軽視、ずさんすぎる薬品行政の実態

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2010年の山西事件を報じた新聞記事

中国で5年に1度の共産党大会が始まった。ここで習近平国家主席を中心とする指導体制の2期目の指導部が決まる。その大会の開幕式で、習氏は3時間半に及ぶ演説をし、5年間にわたった1期目について、「数多くの大事を成し遂げ、党と国家の事業に歴史的な変革を起こした」と自賛した。その成果の1つとして「人民の生活が不断に改善された」と述べた。

しかし昨年明らかになった「違法ワクチン事件」の取材を振り返ると、習氏の言葉とは裏腹に、庶民の命や生活を蔑ろにするこの国の体質は、何も変わっていないことがわかる。

「山東違法ワクチン事件」とは?

今年1月、山東省済南市の中級人民法院(日本の地方裁判所に相当)で開かれた裁判の判決を、多くの人が注目しているのを私は知っていた。ニュースが報じた法廷内で、被告として並んで立っていたのは中年の女とその娘。実は私は判決よりも何より、倫理のかけらも感じさせない犯罪者であるこの女の顔が見たかった。40代半ばから後半に見える女は、ショートヘアでほお骨の尖った顔をうつむき加減にしていた。

グレーのタートルネックに黒いダウンジャケットという地味な出で立ちだった。娘は20代後半だろうか。カラフルな英語の文字が入った黒いTシャツに白いパーカーという姿。長い髪を後ろに結って母に比べて色白でふっくらした面立ちに黒縁のメガネは、中国によくいる大学生に見えなくもない。

女の名は、龐紅衛(ほうこうえい)。薬品の売買資格を持たないにもかかわらず、薬品メーカーから横流しされた予防接種用のワクチンを売っていた。娘、孫琪は事情を知りながら母を手助けしていた。龐はかつて病院で働いた経験があった。そのコネを使いワクチンを仕入れ、山東省を拠点に20以上の省にまたがる販売網を築いていた。

ワクチンは本来、効能を保つために冷蔵状態で保管、輸送しなくてはならない。当然、そのためにはコストがかかる。しかし龐は、ワクチンを冷蔵保管していなかった。その分、ワクチンは安価だったのだろう。

判決によれば、2013年6月から2015年4月までの2年足らずで、約12億円を売り上げていたという。龐は同様の事件で有罪判決を受けた執行猶予期間中の犯行だったというから呆れるが、前の刑の未執行分も合わせ、懲役19年の実刑判決を受けた。

この事件が中国で最初に報じられたのは昨年3月20日。その時、龐の扱っていたワクチン12種類のリストなども報じられ、「山東違法ワクチン事件」と称された。

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