テレビで生き残るのは2~3社 氏家齊一郎・日本テレビ放送網取締役会議長に聞く

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うじいえ・せいいちろう 1926年生まれ。51年読売新聞社入社。同社常務取締役を経て、82年日本テレビ副社長。一時退任後、91年に復帰し92年社長、2001年会長兼CEO、05年取締役会議長。
広告減少で青息吐息のテレビと新聞。このかつてない厳しい環境を3年前から警告していたのが日本テレビ放送網の氏家齊一郎取締役会議長だ。マスメディアの変遷を半世紀以上見続けてきた重鎮は、メディアの未来をどうとらえているのだろうか。(関連記事:「業績が軒並み急悪化! 追い込まれる巨大マスコミの構造問題」)

流通寡占と広告減少が密接にかかわっている

――景気後退の影響を受け、新聞、テレビの広告が、底が抜けたように減少しています。

現在の広告減少は景気循環的なものではない。今進んでいるのは、もっと大きい構造的な変化だ。私は3年ほど前から構造的変化が起きていると感じ、社内外で発言してきた。

構造的変化とは、端的にいえば流通の寡占の進行だ。アダム・スミス以来の市場メカニズムの考え方は、不特定多数の供給者と不特定多数の需要者が集まれば、見えざる手により一定の均衡点が与えられるという考え方だ。前提は完全に自由な市場というものがあるということ。しかし、戦後時間を経るに従って、独占的な企業が各分野に増えた。特に流通で独占化が進んだ。

30年ぐらい前なら、ビールの価格はナショナルブランドのほうで決められたが、今は日本の場合でいえば、巨大コンビニ群とチェーンストア群が決めている。電機その他でいえば、大型ディスカウントストアなどが価格決定権を持ち、メーカーは自由に価格を決められない。

――流通寡占と広告減少が密接にかかわっている、と。

そもそも広告とは、「自由な市場において、供給者と需要者の間の情報交換機能」の一つだ。

その情報交換がたくさん行われることによって、需要者側の消費者はバランスのとれた知識を得られる。しかし、寡占が進むと供給者と需要者の間の情報を取り持つ広告の機能がなくなってくる。アダム・スミス的なものの前提である供給者と需要者の自由な取引ではなくなっている。

するとメーカーなどの供給者は、マスコミを通じて直接需要者に宣伝するよりも、強力な流通業者に、セールスプロモーションと称するカネを払って、自分の商品を売ってもらうほうが効率的という考え方になる。

広告の中で、新聞とテレビというのは本当にマス。ところが、流通業者はどんなに大きくなっても一つひとつの店舗で勝負している。店舗の周りに対して宣伝するのであれば、チラシなどの広告のほうが効果的だ。マス広告はそれほど必要ではない。

流通寡占の影響を受けない自動車業界においても、30~40年前は、国内の高い市場成長がある中でトヨタ自動車、日産自動車、マツダ、ホンダなどが対等な力で競争していた時代がある。対等な力を持った競争では、各社がこぞって広告を出す。ところが、今のようにトヨタがほぼ寡占体制を確立してくると、ある一定の秩序で固定してしまう。広告を大量に出してシェアを覆そうという考え方は出てこない。物量の戦いになってしまえば逆にたたかれてしまうからだ。

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