三重県「売春島」は、今どうなっているのか 的矢湾に位置する離島「渡鹿野島」の実態

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8年前の時点で、その島は、桃源郷と呼ぶにはほど遠いものだった(写真は2016年撮影のもの。写真:niyan / PIXTA)
置屋・ホテル・飲食店でも女の子を紹介される、最盛期にはドラム缶から札束が溢れた、自称経営コンサルタントが「島の顔」を崩壊させた......。「売春産業によって成り立つ島」として都市伝説化していた渡鹿野島、その過去と現在を雑誌記者が探った。

『売春島――「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(高木瑞穂著、彩図社)は、「売春産業によって成り立つ島」として長らく都市伝説化していた、三重県志摩市、的矢湾に位置する離島「渡鹿野島(わたかのじま)」の実態を浮き彫りにしたノンフィクション。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら

著者は、風俗専門誌編集長、週刊誌記者などを経て独立したというルポライターだそうだが、本書に目を通すと、豊富な取材経験を持っているのであろうことがはっきり分かる。取材姿勢に妥協がなく、通常では立ち入れないような領域まで踏み込むことに成功しているのである。

冒頭から、強烈なインパクトに圧倒される。ナンパされた相手に騙されて"売られた"当時17歳だった少女が、この島から泳いで逃げてきたというエピソードからスタートするからだ。本人の視点で書かれた回顧録に続き、このような解説が続く。

通称"売春島"から命からがら泳いで逃げて来たという少女にテレビ関係者の知人、青木雅彦(仮名)氏が東海地方の某所に会いに行ったのは、2000年2月のことだった。
「会うまでは半信半疑だったけど、聞けば実際に"売春島"で働いたことがないと分からないような話だった。第一印象? 容姿は良かったよ。このコが売春していたら『人気が出るだろう』ってレベルの。でもフツーというよりは、少しヤンキーというか風俗に染まってる感じのコ。彼女は一人でやって来た。最寄り駅で待ち合わせ、雪道を歩いて近場の居酒屋に入ったのを、今でも鮮明に覚えている」(17ページより)

泳いで逃げ帰ってきた少女が、果たして本当に存在したのか? 客観的に判断して、そこには疑問も残る。とはいえ、渡鹿野島が売春島であったことをいやでも実感させる話ではある。

"ヤバい島だ"という程度の認識しか持っていなかった

著者は約8年前に雑誌の取材でこの島を訪れ、その実態を目の当たりにしているが、そこで見たものは、予想以上に寂れた島の実態だったという。置屋、ホテル、旅館、客引き、飲食店などでも女の子を紹介してくれ、セックスできはするものの、それは桃源郷と呼ぶにはほど遠いものだったというのである。

そして著者自身もこの時点では、"ヤバい島だ"という程度の認識しか持っていなかったのだそうだ。ところが、あることをきっかけに、「もっとこの島のことを知りたい、探りたい」という思いが大きくなる。2016年5月に開催された、第42回先進国首脳会議、伊勢志摩サミットである。

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