米国バイオエタノールの失敗--熱狂しても忘れるな!官製市場の落とし穴

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 「今、米国のバイオエタノール業界はクラッシュしている」。そう証言するのは現地の事情に詳しい伊藤忠商事・食料カンパニー飼料原料第一課の西村浩一課長だ。

2008年に原料のトウモロコシ価格が高騰した結果、エタノール工場の多くが赤字操業に陥った。08年中盤以降トウモロコシ価格は下落に転じたが、原油価格急落でガソリン価格も下がったため、連動してエタノール価格も下がってしまった。連邦政府の税額控除によりエタノール需要が底上げされているにもかかわらず、現在のエタノール価格は1ガロン1・5ドル前後。ピークの06年5月の4ドル超から大きく下がっている。

昨年10月31日には業界最大手の一つ、ベラサンエナジーが連邦破産法11条の申請に追い込まれた。上場している同業他社も株価は1ドルを大きく下回っている。現在、大半の工場は採算割れが続いており、業界全体で2割が稼働を停止している。

ブッシュ大統領の旗振り 食糧よりも燃料を優先

そもそもバイオエタノールは生産量を拡大すればするほど、原料となるトウモロコシ価格を押し上げてしまい、採算が悪化するという矛盾を持つ。にもかかわらず、米国のバイオエタノール産業が急成長してきたのは、ブッシュ前大統領の振興策があったからだ。

1970年代後半に本格化した米国のバイオエタノール産業は、主に環境対策と輸出市場にアクセスしにくい地域でのトウモロコシの余剰在庫活用策だった。約20年かけて15億ガロンまで生産量を増やしてきた業界は、01年の9・11以降、エネルギー安全保障という大義名分を得て、一気に成長のアクセルを踏み込んだ。

05年にはブラジルを抜き、米国が世界最大のバイオエタノール生産国になった。肥沃で広大な農地で生産したサトウキビから作られるブラジルのバイオエタノールは、政府の補助なしでもガソリンに対する競争力を持つ。米国はこのブラジル産エタノールに高関税をかける一方、連邦政府が1ガロン51セントの税額控除の優遇策(09年から45セント)を講じることでトウモロコシエタノールを後押ししてきた。各州も独自の補助政策を採ってきた。

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