(第8回)戦国武将に学ぶ健康術・その2

山崎光夫

 戦国武将には野性的な魅力があふれている。
 一方、平成の世に生きる現代の男は、“草食系男子”といわれ、弱さ、頼りなさ、無気力がイメージされる。どうも、“腑抜けウイルス”に感染して、弱々しい男たちが巷(ちまた)にあふれてしまったようだ。
 戦国武将にある勇敢にして剛胆さを現代の男たちに求めるのは無理なのだろうか。
 ラブホテルに入っても、お喋り、カラオケ、飲食だけして、肝心の“ラブ行為”はないという。期待していた女性はさぞ落胆したことだろう。ご同情申し上げる。
 “草食系男子”が増えつづけ結婚できない男がこれ以上あふれるのは由々しき事態である。
 人間も動物であるかぎり、生殖行為は必要であり、また、子孫繁栄も考慮しなければならない。人間がいなくなれば、国家は消える。ヒトには若い一時期、一心に強引に野蛮に突き進む動物的時期があってもいいはずである。それが“草食”では困るのである。

 戦国武将は“草食”とは正反対の性的な強さ、たくましさがある。側室を何人もかかえて房中を支配、リードしている。
 日本では戦国時代よりはるか前から、房中(ぼうちゅう・男女の和合)は、日頃の飲食や節制と同等に重視された。これは、中国の伝統医学に端を発した「房中補益(ぼうちゅうほえき)」の思想が定着していたからである。房中の所作は身心の健康を補い、利益があるとして実践された。いわば、「飲食」と「房中」は養生において、車の両輪と考えられていた。

 房中術については、日本では『医心方(いしんほう)』「房内篇」が知られている。『医心方』は、平安時代の永観二年(九八四)に、鍼博士(はりのはかせ)・丹波康頼(たんばのやすより)が朝廷に献上した全三十巻から成る日本初の医学全書である。その「巻二十八・房内篇」では三十項目にわたり房中の作法と男女和合の法を説いている。朝廷と公家のあいだに秘本として伝わった。房中術は貴人たちの支持、実践するところだった。
 丹波康頼が朝廷に献上した『医心方』は、室町時代後期に、正親町(おおぎまち)天皇から、病気を治療した功績により、医家の名門、半井瑞策(なからいずいさく)に下賜された。現在、東京国立博物館所蔵の写本が国宝に指定されている。

 この『医心方』とは別に戦国武将が拠り所にした性の指南書がある。
 戦国時代を代表する名医に曲直瀬道三(まなせどうさん)がいる。この曲直瀬道三が、戦国武将の松永久秀に伝えたのが『黄素妙論(こうそみょうろん)』である。
 中国の権力者に伝わる性の奥義書である『素女妙論(そじょみょうろん)』や他の房中養生書をもとにまとめた一書である。
 中国の皇帝が房中術に通じた女仙人から、性の奥義を聴きだすという問答形式で構成されている。
 房中術の基本は陰陽(=男女)をいかに巡らせるかである。男子はまず色欲を慎み、その上で女人をどう御するかが問題となる、というのが基本的考え方である。
 次回は、戦国武将の性のバイブル、『黄素妙論』の内容を紹介したいと思う。
 “草食系男子”たちにも知ってもらいたい性の実践作法である。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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