電気自動車(EV)は破壊的イノベーションになる!? プリウス、インサイトはもう古い 

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優良企業の憂鬱なジレンマ

慶應義塾大学の清水浩・環境情報学部教授もEVの可能性を強く信じる一人だ。最高時速370キロメートルを出すEV「エリーカ」を開発し、世の注目を集めた。「パラレル型でもシリーズ型でもHEVは化石燃料を使う。もう一つの選択肢である燃料電池車(水素と酸素を反応させてモーターを充電する)と比べても、エネルギー効率のよさからいってEVが優位だ。さらに乗って面白い、楽しいのがEV」(清水教授)。実際、エリーカに試乗すると、発進4秒で時速100キロメートルに達し、ポルシェ911ターボ以上の加速感に興奮する。

「EVが普及すればやがて自動運転になり、交通事故や渋滞が減らせる。ここのキャンパス(川崎市幸区)から都心までなら時速100キロメートルで20分で着く。都市の広さ、日々の生活、すべてが変わる。携帯電話が出たとき、今のようにカメラやあらゆる機能が付くと誰が考えただろう。EVも想像できない形で使われるようになる」。排ガスゼロのEVなら車庫といわず家の中に駐車して、音響ルームや書斎として使えるようになると指摘する関係者は多い。

電池やモーターといったEV主要部品の技術革新は今後さらに進む。工業製品には、10倍量作れば価格が半分になる“学習曲線”も存在する。さらに、いったん変化が起きれば7年で主役が交代する、と清水教授は言う(下グラフ)。固定電話と携帯電話しかり、銀塩カメラとデジタルカメラしかり。自動車だけ例外のはずがない。今や残る条件は一つ。「企業が決心するかどうかだ」。


 ここで有益な示唆をしてくれるのが、C・クリステンセン教授の名著『イノベーションのジレンマ』だ。優良企業は製品の性能向上を追求するあまり過剰品質に陥り、消費者がもっと安価で手軽なものを求めるようになっていること(需要曲線が下方にシフトする:下グラフ)に気づかなくなる。その間隙を突いて、これまでの技術の延長線上にない破壊的イノベーションが生まれる。それは得てして単純で安価だ。最初こそニッチ市場でしか受け入れられないが、下方シフトした需要曲線とは意外に早くミートし、小さな爆発が起きる。さらに技術革新が進むと主流の需要曲線にもぶつかり、旧技術との世代交代が起きる。

小型ハードディスクやインクジェットプリンタを引き合いに出しつつこの“法則”を解き明かした同書の最終章で、クリステンセン教授はEVを破壊的イノベーションとして取り上げている。

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