プロ野球は観客動員数をごまかしているのか 公表人数と肌感覚で大きな差が出るカラクリ

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だが最近は、ショップ側が売り手から買い取らず委託販売契約を結び、売り手との代金清算もゲーム成立後とすることで、買い手が負う雨天中止リスクを回避するショップが増えており、転売しやすい方向にある。

阪神球団作成の規約では、チケットショップへの転売やネットオークションへの出品は即、営利目的の転売と見なし、年間シート契約者としての地位も剥奪することになっているが、球団側が取り締まっている形跡はない。つまりは、人気球団の年間シートはセカンダリーマーケットが確立しており、本来空席になるはずの席が埋まる確率は高い。また、人気がない球団の場合は、年間シートとして実際に売れる席数も限定的だから、人が実際に来ようが来まいが誤差の範囲に収まる、というわけだ。

大きな差が生じる主なパターン

では、公表人数と実際の人数の差が出る原因は何なのか。2通りのパターンがある。1つは、完売し公表人数もほぼ満員だが、実際の入場人数は明かに公表人数よりも少ない場合。つまり、チケットの売れ行きと公表人数は一致しているが、実際の入場者数と公表人数に齟齬がある場合だ。昨年10月2日の神宮最終戦・ヤクルト対阪神戦がこれに該当する。

この原因は明らかで、チケットゲッターが多数のチケットを買い占めた結果、正規の販売ルートでは完売になったが、実際に観戦する目的で、チケットゲッターから購入する人が少なかったから。公表ルール上は、チケットゲッターが買い占めたチケットも有料販売枚数としてカウントされるが、彼らは観戦を目的にしていないので席はガラガラになる。

もう1つのパターンは、完売なのに公表人数は満員にならないケース。筆者が一昨年の7月にナゴヤドームで中日・巨人戦を観戦した際も、完売なのに観客動員数はナゴヤドーム全体のキャパシティの9割程度でしかなく、公表人数と肉眼で見た来場者数はほぼ一致していた。

この現象は無料配布枚数が多い場合に起こりやすい。無料招待券はファンクラブ入会者に配るものや、年間シート契約者に配るもの、親会社やグループ会社の営業用に外部に配布するものなどさまざまで、入場券と引き替えて入場しないとカウントされない。

東京ドームの巨人戦には「内野指定席D引替ご招待券」なる有名な無料チケットがある。読売新聞社やそのグループ会社が発行、配布しているもので、普通に買えば1700円するD指定にタダで招待するというもの。さすがに人気が高い球団だけに、無料招待券までチケットショップで売られており、このD指定引替券は1枚数百円程度。対価を払って購入する人がいるくらいだから、着券率も高いということなのだろう。

この2パターンでは説明が付かないのが、完売にもならず、チケットは余裕で買えるのに、何となく公表人数が実際の観戦者数よりも著しく多く感じる場合だ。考えられる可能性は1つ。強力な営業力で年間シートの販売席数を維持している場合だ。

現在のルールは実際の来場者数に可能な限り近づける目的で考案されたものだが、来場者の肌感覚と公表数値に大きな差がある限り、「プロ野球は動員数をごまかし続けている」という批判は絶えることがないだろう。いっそのこと、動員数の内訳も公表すれば疑いは晴れるのかもしれない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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