キリンが「一番搾り」を刷新、看板商品リニューアルで執念の首位奪還なるか

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リニューアルを決断 「ラガー」の轍を踏むな

「ビールはキリンの屋台骨。キリンの意地を見せたい」。佐藤章・マーケティング部長は熱く語る。ちょうど1年前、佐藤氏は一番搾りのリニューアルプロジェクトをスタートさせた。キリンは発泡酒「淡麗」や第3のビールのどごし〈生〉で、各市場別シェア首位を取るが、本命のビール市場ではいまだアサヒの足元にも及ばない。キリンにとっては、このうえなく歯がゆい状況だ。

今こそリニューアル好機、と佐藤氏は断言する。「近年のビール市場は新製品が異常に多い。今こそ、大型定番品をリニューアルするよい機会」。07年は二十数種類、08年も十数種類の新製品が各社から発売された。CMも売り場も目まぐるしく変化する状況に、消費者は混乱ぎみ。だからこそ、「定番回帰」を訴求する絶好の機会なのだという。

佐藤氏は、キリンビバレッジ時代に「午後の紅茶」のリニューアルで、長寿ブランドを再生させた手腕を持つ。その佐藤氏とタッグを組むことになったのが、マーケティング部商品担当主幹の田中敏宏氏。一番搾りリニューアルの話が最初に持ち上がった10年前も一番搾りを担当、今回くしくもリニューアル本番のプロジェクトリーダーとなった。キリンきってのヒットメーカー佐藤氏と、一番搾りのマーケティング経験が豊富な田中氏の強力コンビ。そこに既存品リニューアルでは異例の7人が加わり、ビッグプロジェクトが動き始めた。

リニューアルで最も重視したのが、現行の一番搾りファンを裏切らないこと。価格据え置きは当然のこと、味を変えてファンを失望させることは許されない。嫌でもラガーの苦い記憶が脳裏をよぎる。味の骨格を変えることなく、中身を刷新するという高度な離れ業が要求される。

実は、一番搾りの麦芽100%化はこの10年の課題であり続けてきた。が、技術的な壁を超えられなかった。うま味を増やすと、渋みも増えてしまう。そうなると、一番搾りのウリであるスッキリした飲みやすさがなくなってしまう。今回のリニューアル品は渋みの総量はそのままで、うま味を増やすことに成功。既存品の香味設計を踏襲しながら、コンセプトである“澄み切ったうまさ”の実現を果たしたのだ。マーケティング部の田代美帆さんは話す。「中身の試作品は50タイプ以上作った。コーンやコメなどの副原料が入った試作品もあったが、悩みに悩んで、最終的に麦芽100%のこの味にたどりついた」。


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