「年を取ると早起きになる」には理由があった 解明が進む「体内時計」の驚くべき役割

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アキール博士は、自分たちの研究を裏付ける調査を、ほかの研究者が実施してくれたことを感謝していると言う。「2つの研究は重なる部分が多いため、本当に起こっていることなのだと確信が持てる」。

マクラング博士らは新たなことにも取り組んだ。脳内の遺伝子発現のパターンを若年者と高齢者で比較し、非常に興味深い違いを発見したのだ。

彼らは、人間の体内時計が年齢とともに変化する理由を見出したいと考えていた。マクラング博士は、「人間は年を取ると時間のリズムが崩れ、早いほうにシフトする傾向がある」と言う。

若い人と60歳を過ぎた人との具体的な違い

脳研究からわかったこととは?(画像:Tim Robinson/The New York Times)

博士が発見したのは、若い人では一日のサイクルで活性化していた遺伝子が、60歳を過ぎた人では弱まってしまうということだった。体内時計を維持するのに必要なタンパク質が、一部の高齢者の脳内では合成されなくなることが考えられる。

しかし同時に、高齢者の脳内でだけ、一日のサイクルで活性化する遺伝子があることも発見された。マクラング博士は「まるで脳が別の時計を動かして、不足を補おうとしているかのようだ」と話した。

アキール博士は、脳が予備の時計をつくる能力があると、高齢者が神経変性疾患になりにくいのかもしれないと推測する。「悪化するか否かを分けるのは、その能力なのかもしれない」。

やがては、体内時計に関連したさまざまな疾患の治療方法として、予備の時計のスイッチを入れられるようになる可能性も考えられる。

アキール博士は、時間のサイクルがある遺伝子の発見により、その遺伝子が何をしているのかを解明するための動物実験が行えるようになると言う。「研究室に座って、この遺伝子が何の役に立つのか想像する代わりに、人間の脳からインスピレーションを得て、『脳は何を伝えようとしているか』を解明するのだ」。

(執筆:Carl Zimmer記者、翻訳:東方雅美)

© 2015 New York Times News Service

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