【産業天気図・鉄鋼】原料調達コスト急騰で、鉄鋼業界の増益基調は一転踊り場で「曇り」模様

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2007年12月の前回予想では「条件付き晴れ」としていた鉄鋼業界の08年度見通しだが、状況はむしろ良くない方向に傾きつつあり、08年度は年間を通して「曇り」模様となりそうだ。
 原因は原料調達コストの急騰だ。新日本製鉄<5401>が3月6日に発表した今08年3月期見通しでは、原料市況品関連で対前年比1650億円の減益要因に働く見込み。内訳としては、フレート(海上運賃)とスクラップがそれぞれ500億円、石油関係が250億円、その他の合金鉄やコークス等が400億円となっている。高級鋼の増産(同420億円増)や販価・製品構成改善(同1100億円増)の効果を帳消しにしてしまう格好で、同社は通期営業益見通しを従来の5800億円(前期比横ばい)から350億円減の5450億円に下方修正した。国内2位のJFEホールディングス<5411>も同様に、原料調達コストが210億円増となり、営業利益を従来予想比300億円減の5100億円としている。
 来08年度は、上記のような調達コスト増に加えて、鉄鉱石や原料炭といった主原料価格も大幅に上昇する。すでに鉄鉱石の08年度分価格交渉では、日本の高炉各社とヴァーレ(ブラジル)との間で前期比65%アップで決着済み。他の資源メジャー(BHPビリトン、リオ・ティント)とも同率での値上げが決まれば、「業界全体で5000億円の減益要因に働く」(日本鉄鋼連盟の馬田一会長)見込みだ。さらに、原料炭に至っては、主要調達先である豪州で豪雨が発生。主要鉱山が軒並み冠水し、現在も回復のメドは立っていない。JFEを除く高炉4社は当面、米国からの緊急調達でしのいでいく形になるが、価格は長期契約の約3倍で大きな利益圧迫要因となりそうだ。長期契約の価格交渉は豪州の回復後になる見込みだが、世界的に需給が逼迫する中、鉄鉱石同様に大幅な値上げが予想される。上記の状況を勘案すると、国内鉄鋼業全体への原料高騰の影響は2兆円に上るともいわれている。
 2兆円のコスト増に対して、高炉各社は1トン当たり2万円の販価改善を要求していく構えだ。足元の需給が逼迫している造船や建機向けは製品転嫁が順調に浸透するだろうが、問題は国内販売が低迷する自動車向けだ。トヨタ自動車の渡辺捷昭社長からは「全産業でコスト低減に努めるべき。鉄鋼メーカーもさらに努力する余地があるだろう」と鋼材値上げをけん制するコメントも出ており、環境は鉄鋼業界にとって追い風ではない。ただ、鋼板値上げを逃した06年度の反省から、鉄鋼各社は08年度分の鋼材価格交渉を前倒しして進めており、「1トン2万円という価格改善は可能として、あとはどの時期から転嫁するかというタイミングの交渉」(証券会社アナリスト)となる気配が強いという。
 いずれにしても、08年度の鉄鋼業界の先行きは製品価格転嫁の浸透度次第。自動車各社との交渉がもつれるようだと、雲行きはさらに悪化する可能性もある。
【猪澤 顕明記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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