「赤ちゃん顔のひな人形」が売れまくる理由 旧慣習を覆した「節句人形SPA」の挑戦とは?

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節句人形は一般的に、顔や体、布地や道具などをそれぞれの職人が作り、問屋に卸し、小売店がパーツを組み合わせて販売されている。作り手と買い手の間の壁は、製造と販売が完全に分離しているこの構造にも原因があった。

そこでふらここは、自社でゼロから商品を企画し、販売まで手掛けることにした。原社長は、職人一人ひとりに消費者が望む人形について説明して回った。

最も重要なのは人形の顔だ。伝統的なひな人形は細おもての輪郭に切れ長の目。でも原社長は「赤ちゃんのような顔」にこだわった。無形文化財の人形師だった祖父が「赤ちゃんの天真らんまんな笑顔は、仏像のお顔に通じる物がある。純真な心を持つ赤ちゃんの顔だからこそ、見る人の心を癒やす力がある」という言葉を残していたのだ。愛される人形にかわいい顔は不可欠だと考えた。

ところが、職人は彫りの深い造形美にこそ誇りをかける。かわいい赤ちゃん顔とは真逆の方向性だ。原社長の思いには共感する職人でも、それを形にすることは難しかった。

「もっと彫りを取ってください」

「これ以上取ったら顔じゃなくなるよ」

「もう1回だけお願いします」

そんなやり取りをさんざん繰り返した後に出来上がった顔を見て、やっと職人は理解してくれたという。「原さん、これ、かわいいですね」。

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ふらここのひな人形。販売はネットのみで実店舗を持たない

こうして販売にこぎつけた初年度は、ひな人形200セットからのスタートだった。年内の販売開始時には多少引き合いがある程度だったが、年明けからじわじわと急に注文が増え始め、2月を待たずに完売。原社長は「やっぱりこういうひな人形が求められていた」と実感し、胸をなでおろした。最初は半信半疑だった職人たちもこの数字を見て、また、翌年以降も売り上げが増えてくるのを目の当たりにして、商品開発に対するモチベーションが上がっていった。

昨シーズン(15年3月商戦)は約2000セットを売り切った。今年も11月1日に販売を開始したところ、9時30分の受付開始とともに一斉に注文が入り、同日24時までに397件を受注したという。現在もホームページの「完売情報」は続々更新中だ。

クオリティを支える女性の力

実は多くの節句人形の小売店では、購入客からのクレーム率が1割近くに上る。その要因の一つもまた、旧態依然とした商慣習にある。

ひな人形の販売シーズンは年が明けた1月から始まる。職人が仕事をするのは夏以降だ。小売店が商品を仕入れるのはシーズン直前。じっくりと検品する時間はない。ふらここでは、検品に力を入れるために職人に1年を通して納品してもらう。創業から8年、これまで不良品によるクレームを受けたことはない。

こうした“要”ともいえる検品作業を支えるのが女性スタッフたちだ。検品といっても、「職人から8割完成の状態で納品された商品を、この作業で10割の完成品にする」(原社長)という最終仕上げの作業のこと。

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