日本人が知らない"カネの国"アメリカの美徳 「カネを作る人」がもっとも尊敬される

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この共和党予備選の結末だが、トランプがこのまま指名を獲得し、クルーズを副大統領候補にするのではないかと筆者は考えている。従来のように白人を中心とした文化的保守の共和党員と、信条としては真逆なリバタリアン寄りの財政保守の共和党員が同居して混迷を極めていた共和党で、この本質的に相容れないふたつのグループを結びつけることができるのはトランプしかいない。

トランプ自身は自由至上主義者でもアイン・ランド主義者でもない。その発言は1980年代のナショナリストのそれに近い。だが彼の選挙陣営に集う自由至上主義者たちにとってそれは問題ではない。自由至上主義者たちは、自分たちだけでは決してアメリカのメインストリームに届かないことを知っている。筆者の憶測にすぎないが、トランプの主義主張の全体はともかく、彼自身が傑出した才能をもつ成功したアメリカの実業家であることは疑いがなく、クルーズをランニングメイトとして改革を進めてくれればよい、ということか。

さらに、前述のルワンドウスキー選対部長はいまクルーズ陣営にいるボブ・スミス元上院議員の選対部長を務めたことがあり、広報のピアソンもクルーズのスタッフだったなど、二つの陣営には合流の下地が整っている。妥協のきかない防衛面でも両陣営は親和性が高そうだ。

ちなみに、「過激なテロ対策」を打ち出していることがトランプの問題点と指摘されることが多い。しかし、そもそも過激なのはトランプが掲げるテロ対策ではなく、イスラム国などテロリストの方だ。彼はイスラム教徒への憎悪をあおっているわけではない。問題は宗教にあるのではなく、イスラム教徒たち自身のためにもテロの問題を根絶しなければならないと述べているのである。

カネを刷る人とカネを作る人

実際問題として、トランプが指名されたとしても、来年の本選でヒラリー・クリントンを破ることは難しいだろう。だが指名されれば、前回に続き共和党は、政治家でも軍人でもない、アメリカが誇る実業家を大統領候補にかつぐことになる。政策については未知数だが、トランプが当選した暁には、彼と個人的に親しい稀代の名経営者ジャック・ウェルチが起用されるという噂もある。ウェルチは高齢だし可能かどうかわからないが、彼がGEでしたことを公共部門で行おうとしたら激震が走るだろう。

今回でないとしてもお金の国アメリカは、いつか近い将来、お金を刷ったり配ったりする政治家ではなく、「おカネを作る」経営者たちを国のリーダーとして選びはじめるのではないだろうか。

筆者もまたこの半年間トランプ旋風に目を奪われ、いつしかトランプその人に魅了されてしまった。次回こそは、アイン・ランドが政治ではなく起業家たち、シリコンバレーやビジネスマンに与えてきた影響について紹介したい。

1月19日と20日にアイン・ランドに関する講演会があります。19日の講演会についてはこちら、20日の講演会についてはこちら

 

脇坂 あゆみ 翻訳家

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わきざか あゆみ / Ayumi Wakizaka

訳書にアイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』(アトランティス社)、『われら生きるもの』(ビジネス社)。イタリア映画「Noi Vivi」の字幕翻訳も。ランドの作品を翻訳するかたわら、アメリカのリバタリアン思想や政治文化の動向をウォッチし続けている。ジョージタウン大学外交大学院修士課程修了。米国公認会計士。

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