北京市民が東京都民並みに長生きできる理由 PM2.5に立ち向かう現代中国人の養生事情

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というのも、伝承されてきた中医学は「身体を傷つけずに養う」「バランスを取り戻すように調整する」という考えなので、病気になってもできるだけ手術しないからだ。重篤な病気に罹った場合でも、「神秘」な中医に任せ、「奇跡」が起こるかもしれないと信じる(たい)のである。

ここで改めて、養生思想についておさらいしたい。「病気は罹ってから治すのではなく、病気に罹る前に治し、医者に頼らず、自分自身で自分の身体をコントロールして生き生きと快適に生きる」という中医学(中国の伝統的な医学)の考え方がある。それを「養生」、すなわち「生(生命)を養う」と呼ぶ。飲食や日常の生活習慣などさまざまなところで深く浸透している。

中医学の養生思想は、約2300年前の「易経」の陰陽論(世の中すべての物事が陰陽に分けられている思想)、約1300年前の前漢代の「黄帝内経」(現存する中国最古の医学書)などから伝わってきており、中国人に強い影響を与えている。その特徴は、①西洋医学の対処治療と異なり、全体のバランスを整えることで治療すること、②症状が同じでも治療内容は患者の体質によって異なること、③養生法により病気にならない身体づくりが重視されていることである。

携帯魔法瓶、フードジャーがバカ売れするわけ

携帯魔法瓶や炊飯器は中国人に人気のアイテムだ

たとえば、男性は精気あふれる「陽性」で女性は「陰性」なので、女性は陽気を補充する為に冷えはよくないし、「陽性」の食べ物(ナツメ・朝鮮人参)を多めに摂取すべきだと考えられている。その最たる例と言えるのが産後ケアだ。女性の出産後ケアを「坐月子(ゾイェーズ)」と言い、産後1カ月間の休養を非常に重視する。この間をゆっくり休み、飲食や生活に気をつければ、産婦の体質まで改善できると考えられている。具体的には、「できるだけベッドで安静にする」「風にあたると将来頭痛になりやすい体質になるので風にあたらないようにする」「栄養豊富で消化しやすいもの、哺乳によいものを食べる(魚・鶏・豚足スープ)」などである。

体を冷やしてはいけないという意識は、自分たちが気づかないほど強いものがある。携帯魔法瓶を持ち歩き、白湯を一年中飲む。特に現在PM2.5などで空気が悪い時は、百合・梅干し・数種類の生薬を魔法瓶に入れ、おいしい「清肺茶」(汚い空気を吸う肺が一番ダメージを受けるため、肺に良いと言われる生薬のブレンドティー)を作って飲む。これで、携帯魔法瓶の「バカ売れ」現象を理解してもらえるだろう。

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