大転換する人材マネジメント 迫られる人事部の意識変革 伊東朋子著

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本書を読めば、いま起こっている時代変化、その変化に対応するための方向がはっきりわかる。人事部の意識変革への起爆剤となることを期待したい。

本書の構成は、Prologue、Chapter01~04、そしてEpilogueとわかりやすい。人事関係者なら、内容に心当たりがあるだろうから、一気に読み進むことができると思う。

わたし自身がもっとも面白く読んだのはChapter03だ。Chapter03は、米ミシガン大学ロス・ビジネススクールのデイビッド・ウルリッチ教授が説く「HRの4つの役割」を紹介している。ご存じの方も多いと思うが、人事の役割を規定したもので「戦略のパートナー(戦略的HRのマネジメント)」「管理のエキスパート(企業のインフラストラクチャー〈制度や構造〉のマネジメント)」「従業員のチャンピオン(従業員からの貢献のマネジメント)」「チェンジエージェント(変革の推進者)」の4つである。

ウルリッチ教授は、従来のHRが果たしてきたのは「単なる制度、基準の番犬」に過ぎないと否定し、4つの役割を提起した。

最近の人事セミナーでは、この4つの役割が引用されることが多く、かなり多くの人事担当者には既知の知識かもしれない。しかし内容を細かく説明するセミナーは少ない。本書の解説は丁寧なので、一つひとつの役割の意味がよくわかる。

ウルリッチ教授は「HRの4つの役割」を実行するために必要な能力要件として「HRコンピテンシー」を定義している。しかしこのコンピテンシーを紹介する本やセミナーは少ない。

HRコンピテンシーの最新版は、ウルリッチ教授の調査研究グループが今年発表した「2012 Human Resource Competency Study」だ。Web検索すれば原文を読むことができる。本書はこの最新版を取り上げている。

HRコンピテンシーは6つある。「人事の戦略者(Strategic Positioner)」、「信頼される実践者(Credible Activist)」、「組織力の構築者(Capability Builder)」、「チェンジチャンピオン(Change Champion)」、「HRのイノベーター/インテグレーター(HR Innovator and Integrator)」、「テクノロジーの提案者(Technology Proponent)」の6つだ。

最後の「テクノロジーの提案者」とは、従業員同士を効率的につなぐためにテクノロジーを活用することである。たとえばソーシャルメディアを使ったコミュニケーションチャネルに投資することだ。ソーシャルメディアの登場はこの数年のことだが、最新版だけあってこのような新しいテクノロジーにも目配りされている。

6つのコンピテンシーの詳細については、本書を読んでもらいたい。これからの人事に必要な能力について知ることができる。

東洋経済新報社 1470円

(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)

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