最強市民ランナーが少ない練習で勝てるワケ 「アマの星」川内優輝"育ての親"が語る

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「腹八分目に医者いらず」のことわざの通り、暴飲暴食をしないで腹八分目にしておけば病気にならないといわれています。私はこの八分目の精神は、マラソンの練習にも当てはまると思っています。そのため、選手たちには"腹八分目の練習"しかやらせません。

もともとポイント(強化)練習は週2回と少なめですが、それも腹八分目の強度(ペース)です。その他の日はジョッグでつなぎ、体調と相談しながら自分の頭で考えて走ることを是とします。

多くの市民ランナーが参加するランニングクラブの練習会などでスピード練習を実施すると、仲間との競争のようになってしまうことが多いです。フォームが崩れても仲間に負けたくないから「ゼイゼイ」「ハアハア」と息を切らして必死に走る……。

根性はつくかもしれませんが、長い目で見れば"マイナスの練習"です。故障を招くこともあるでしょう。実際、市民ランナーの2人に1人はなんらかの故障を抱えているそうです。

ポイント(強化)練習では、スピード練習でも距離走でもフォームが崩れない程度のペースで、"膝のタメ"を意識しながら走り、最初から最後まで一定ペースをキープする。そして余裕を持って終えます。

それが腹七分目くらいでもの足りないのであれば、追加で1本。スピード練習(インターバル走)であれば300m×1本、距離走であれば1000m×1本などをフリーペースで走ってストレス発散して、腹八分目にして終えましょう。

箱根駅伝の強豪校に入学してしのぎを削るのは、素質に恵まれた選手ばかりですが、大学で伸び悩むケースが少なくありません。箱根駅伝で脚光を浴びる選手たちの裏には、故障を抱えて悶々としている選手たちがたくさんいるのです。

近年は高校でも随分と距離を踏んでいるので、故障に苦しむ選手は増加している印象です。これは指導者の走らせすぎもありますが、レギュラー争いが過熱するなかで、自分の体調が悪くてもそれを指導者に報告できずに練習するという雰囲気もあると聞きます。

市民ランナーも同じで、調子が悪いときでも走ろうというのは逆効果でしかありません。ポイント練習でも追い込んで走り切ると終了後に達成感がわいてきますが、これが結構なくせ者でオーバーワークと故障の呼び水となるのです。

練習では達成感のレベルを下げる意識が大切です。

オーバーワークを防げますし、膝のタメを使った走りもしやすくなります。無理をしてもいいことはありません。設定タイムに余裕をもたせて、「楽しく走る」ことを優先してください。それが目標タイム達成の近道になります。

津田 誠一 元学習院大学陸上競技部監督

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つだ せいいち

1942年愛媛県生まれ。66年学習院大学経済学部卒、同年沖電気工業入社。97年沖データ取締役営業本部長。2002年同社定年退職。03年学習院大学陸上部監督就任。05年川内優輝入学。07年、09年と川内が関東学連選抜で箱根駅伝(6区)出場。

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