出版社への「飛び込み」が作家への道を拓く

黒木亮もきっかけは「飛び込み」だった

書斎にて

私は大学の法学部を卒業して銀行に入ったが、お金を右から左へ動かす仕事は、後に何も残らず、手のひらから砂がこぼれ落ちていくような空しい日々だった。そうした中で、自分が生きた証として本を書いてみたいと切実に思うようになった。しかし銀行業は激務で、海外勤務をしたくて続けていた外国語の勉強以外は、ほとんど何もできなかった。

転機は30歳で銀行のロンドン支店に赴任した時にやって来た。国際協調融資の仕事を担当し、しょっちゅう中近東やアフリカに出張するようになったので、長距離フライトの機内で、国際金融の現場での出来事をノートに書き留め始めた。

飛び込みで出版社の門を叩く

数年経って書いたものが400字詰め原稿用紙換算で300枚ほどになったとき、いくつかの出版社に持ち込んだ。いきなり電話をかけて「編集の方につないで頂けないでしょうか」とお願いした。首尾よく編集者につないでもらえたときは「私はこれこれしかじかの者で、こんな内容の原稿を書いたので、お送りするから読むだけでも読んで下さい」とお願いして、原稿を送った。

名の知れた出版社はダメだったが、学生社という小さな出版社が、国際金融の現場体験を書いた本は他にないからといって、エッセイ集にしてくれた。初版1500部でたいして売れなかったが、商業出版で自分の本を出せたのは一つの前進だった。36歳のときのことである。

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