非常時に対応し切れなかった歯科医による身元確認、生かされない教訓--震災が突きつけた、日本の課題《5》/吉田典史・ジャーナリスト

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さらに岩手県についてはこう語る。
 
 「私が知る岩手県では、遺体安置所の責任者が情報を収集し、問題を修正しようとしていたように思う。県の歯科医師会は、口が開けられなかったり、客観的な記録となる口の中の写真やレントゲン写真を撮ることができなかったご遺体は、身元の確認が遅れたり、確認ができなかったものが多いと学会などで報告をしている。警察も歯科医師会も組織として対処できなかったことを洗い出し、今後に活かそうとしている」

災害医療に携わることができる歯科医師

私は疑問に感じた。なぜ、岩手県の歯科医師と宮城県の歯科医師らの間に差があるのかだろうか。都築氏はボールペンの先で机を数回たたき、しばし考え込む。そして、こう答える。

「彼らが問題として受け止めないならば、考えることもないでしょう。あのときに自分たちはよくできた、と思っているならば、他の地域から被災地に赴き、歯科所見採取などにかかわった歯科医師らの意見や改善点に耳を傾けようとはしないのではないか」

都築氏は「私の想像の域を出ていないが……」と前置きし、こう続けた。

「宮城県歯科医師会は、もしかすると狭い範囲での知識とか情報で判断しているのかもしれない。震災直後、東京から赴いた私たちが警察庁などと日頃から接触し、身元がわからないご遺体にかかわってきたこともあまり知らないようだった」

実際、私が仙台市などの歯科医師(クリニック等の開業医)と接して感じることだが、都築氏らのような災害医療をしてきた歯科医師との意識の差は大きい。都築氏は付け加えた。

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