旅客機高級シートに参戦した日本企業の勝算 ジャムコは欧米2強の寡占を崩せるか

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――新規参入にも関わらず、なぜ高級エアラインであるSQから仕事が取れたのか。

以前からシート分野への進出に向けて社内的な準備を進めていたが、なかなか参入のチャンスがなかった。そうした中で数年前、ギャレーなどで長年の取引関係にあるSQから緊急の協力依頼を受け、それが参入の大きな突破口になった。

当時、SQは取引先のシートメーカーが品質問題を起こし、シートが届かずにA380の導入が遅れ、困っていた。そこで、その会社の仕事を途中から引き継ぎ、安全性試験をやり直し、急ぎで納入してくれないかと(打診された)。レスキュープログラムを短期間でやり遂げたことが認められ、SQのシート入札に参加できるようになった。

海外勢と競合の末に最初に受注したのが、777新造機用のプレミアムシート。当社がイチから手掛ける最初のシート案件だったので大変苦労したが、きちんと納期を守り、納入した製品も高い評価をいただいた。「ジャムコ、なかなかやるじゃないか」と(笑)。それで777既存機の更新用や777以外のシートも任された。

――シートは1席当たりの単価がどれくらいするのか。

業界の平均的な相場でいうと、ファーストクラス用は1席で高級外車が買えるくらいの金額だ。ビジネスシートでも、あと少しでプリウスが買えるくらい。

国際線の中距離以上ではビジネス席が35席以上、ファーストクラスも4~12席あるので、1機分だけでまとまった金額になる。SQのような高級エアラインになると、すべてが特別仕様で値段はうんとハネ上がる。

ただ、SQほどコストをかけられるエアラインは世界でも限られる。そこで、「Dove Tail(ダブテイル)」と名付けたビジネスクラス用の標準型シートも用意した。比較的リーズナブルなコストで快適性が高く、まっすぐ、斜めなど柔軟に配置できるのが大きな特徴だ。この標準型シートを武器に多くのエアラインを開拓していきたい。

課題は製造コストの低減

787、777などボーイング中大型機の化粧室はすべてジャムコ製だ。写真は新潟工場の生産風景

――シート事業の難しさはどういった点にあるか。

耐久性は当然として、ビジネスやファーストクラスは特別な空間なので、エグゼクティブたちを満足させられるだけの快適さ、高級感が求められる。

どのエアラインもシートに対するこだわりはものすごくて、座り心地や高級感、使いやすさなど要求基準が高い。SQからは革製シートのシワの寄り方にも細かな注文を受けた。

また、シートは乗客の安全に大きく関わるため、そのための試験も非常に大変だ。16Gの衝突試験をして安全性を入念に確認することが義務づけられているので、その試験に多くの手間と時間、さらに費用も要する。

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