ホンダの定年延長、「割を食う」のは誰なのか 総人件費抑制や成果主義拡大の意味

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総人件費を増やさずに定年を延長するということは、1人の社員の視点でみると、それまで60歳までにもらえていた賃金が薄く引き伸ばされ、65歳まで働かなければ同等の生涯賃金を得られないという解釈にもなる。単純に考えれば、若い世代ほどその影響が大きくなるだろう。逆に、会社としてみれば、「同じ人件費で5年長く働いてもらえる」という、単純にして大きなメリットを手にする。

総人件費を抑制するための時間外手当の割増率の削減や国内出張日当の廃止も、若い世代ほど影響を受ける。時間外割増手当についていえば、課長級以上はもともと時間外割増手当のつかない年俸制になっているので、影響を受けるのは係長級以下の若手。また、国内出張日当の廃止も、相対的に基本給の低い若手社員のほうが収入に対するインパクトは大きいであろう。

成果主義の徹底により懸念されるのは?

成果主義の徹底もホンダらしい企業文化を奪ってしまわないかという懸念がある。

故本田宗一郎氏と二人三脚でホンダを世界的企業に育て上げ、もう一人の創業者ともいえる故藤沢武夫元副社長は、著書「松明は自分の手で」の中で次のように語っている。ホンダが技術研究所を別会社として独立採算制にしたときの場面だ。

「出世は誰だってしたいから、技術のほうへ向けるべき頭の大部分を、不得手なほうに向ける。すると、不得手であるべきことが不得手だと思わなくなるのが人情なんですね」

すなわち、革新的な技術やアイデアを生み出すためには長い時間がかかる場合もあるので、出世や短期的な成果を追い求めすぎず、安心して技術研究に専念できる環境を用意することが、ホンダの社員にとっては必要だと藤沢氏は考えていたのである。

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