野田首相は不信任案提出を逆手に取って解散に踏み切れ

野田首相は不信任案提出を逆手に取って解散に踏み切れ

塩田潮

 8月3日も「原発ノー」の国会包囲デモが行われた。デモといえば、60年安保騒動が有名だ。1960年1月、当時の岸首相は新日米安保条約を調印し、6月に批准を終えたが、5~6月、連日、10万人以上の安保反対デモが国会を取り巻き、革命前夜の様相を呈した。

 そのとき、岸首相は調印後に「衆議院を解散して安保条約について国民の信を問いたい」と自民党の川島正次郎幹事長に相談したが、「党をまとめ切れない」と反対され、解散できずに終わった。選挙をやれば、自民党勝利、反対勢力粉砕、批准達成と進んだかどうかはわからない。だが、岸首相は「あそこで解散しておけば」とその後、何度も悔しがった(詳細は7月刊の拙著『国家の危機と首相の決断』〈角川SSC新書〉の第7章を)。

 半世紀後、野田首相が消費税増税法案に挑戦中だ。6月26日に衆議院で可決し、この後、参議院で採決する計画だが、岸元首相と同じく、総選挙をやらずに先に国会で目標達成、というやり方を選択した。ところが、増税法案阻止で一致する野党5党が8月2日、参議院採決前の内閣不信任決議案提出を決め、にわかに解散問題が焦点となってきた。

 総選挙回避の野田首相は不信任案成立阻止に躍起だが、そもそも現在の混迷政治の主因は、民意を問わずに国会で法案成立、という出発時の野田首相の「ボタンの掛け違え」の選択が大きい。財政と社会保障の改革が急務という信念なら、それを国民に訴え、総選挙で信を得た上で堂々と推進すべきであった。法案成立、総選挙乗り切り、その後に実施という戦法は、94~97年の村山、橋本両首相の下での5%への税率引き上げの「成功の方程式」を手本にしたに違いないが、民主主義の王道を無視した姑息なシナリオだ。

 内閣支持率低迷と増税反対論の根強さの要因はいくつも考えられるが、「民意を問わずに進める野田政治」への反発は想像以上に大きい。もともと「急がば回れ」の野田流で政権を握ったのだから、不信任案提出というこの機会を逆手に取って衆議院解散に踏み切り、法案成立前に国民の判断を仰ぐという「急がば回れ」の道に転換したらどうか。このままでは、狙いどおり今国会で増税法案が成立しても、「あそこで解散しておけば」と悔しがった岸元首相と同じ運命をたどり、直後に「野垂れ死に退陣」となる可能性もある。
(写真:梅谷秀司) 
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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