セーラー万年筆・中島氏がクーデターに反論 旧大蔵エリートが解職され、会社を訴えた

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中島義雄(なかじま よしお)
1942年生まれ。1966年、旧大蔵省(現財務省入省)。2000年、京セラミタに入社。以後、船井電機の副社長を経て、2009年にセーラー万年筆の社長に就任。2015年12月12日、社長を解職され、裁判所に仮処分を申し立て中(撮影:今井康一)

――業種にもよるだろうが、③「社長が得意先を回っていない」ことを解職の理由とするのは、不思議だ。

得意先を回るのは、営業担当役員でもいい。でもやっぱり社長が、地方のへんぴなところまで行くと、みんなびっくりする。私は地方に出張しても、得意先に顔を出すようにしていた。

卸の大手が多かったので、2016年からは、セーラー万年筆にとって大事な小売り130店をひとつ残らず回る、という方針を示して、公言していた。

――会社側のリリースでは、1年ほど前に3点を申し入れたが、改善の兆しが見られなかったことを、解職の理由としている。

彼らから、1年ほど前に「仕入れ商品はやめてくれ」と言われたことはある。ただ、「講演活動をやめてくれ」と言われたことはない。

音声ペン以外にも、いくつかの仕入れ商品をやった。だから、それまで手掛けたものは事業化するまで続け、新しいものには手を出さない、と約束した。

新しいことをやろうとすると、芽を出すものもあれば、失敗するものもある。今、国内のマーケットは、縮小している。特にセーラー万年筆のような、100年を超える企業にとって、守り一辺倒で今後いけるのか。私のやってきたことは、小さな失敗を別にして、間違っていたとは思わない。

資金調達で破綻危機から救ったのは私

 万年筆では国内2位で、創業100周年を超えた、老舗のセーラー万年筆。戦後は万年筆に加え、ボールペンやマーカー、シャープペンシルなど、商材を拡大してきた。だが、中島氏が社長に就任する前から、すでに業績は悪化。2014年12月期まで、8期連続で最終赤字に陥っていた。
 主力の文具事業では、ライバルのパイロットコーポレーションが摩擦熱でインクの色が消えるボールペン「フリクション」を、三菱鉛筆が滑らかな書き味に強みを持った油性ボールペン「ジェットストリーム」を投入、それぞれ高付加価値品でヒットを飛ばす中、セーラー万年筆だけが完全に後手に回った。
 またもう一つの柱である、射出成形機用取出機などのロボット機器事業も、自社専用に開発、一時はCDやDVDなど生産関連設備での導入が広がったが、バブル崩壊以降は、設備投資の浮沈で左右される不安定な収益動向を続けている。

――2009年に常務取締役として入社、同年には社長になった。

私がセーラー万年筆に入ったときは、現金がなくて破綻寸前だった。半年遅れていたら、完全にアウトだ。最初の任務は資金を作ること。小規模な第三者割当増資を繰り返したのだが、それでは埒があかない。

そこで、ライツオファリングという株主割当増資が日本で推奨された初期の頃に勉強して、自分で発案して実行した。それが2014年3月に成功し、16億円あまりを集めた。これによって、自己資本比率は10%を切っていたところから、30%台にまで増えてやっと安定してきた。

私には、この会社を破綻の危機から救った、という自負がある。これはIRや宣伝といった、地道な講演活動があったから、できたことだ。

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