自滅する選択 先延ばしで後悔しないための新しい経済学 池田新介著 ~どうすれば回避できるか自己認識が重要に

自滅する選択 先延ばしで後悔しないための新しい経済学 池田新介著 ~どうすれば回避できるか自己認識が重要に

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長

 ギリシャ神話に登場する勇者オデュセウスは、航海中、魔女セイレーンの甘い歌声に惑わされて座礁するのを避けるため、帆柱に自らを縛り付けるよう部下に命じる。目先の誘惑に負け、長期的利益を損なう行動を取ることを認識していたのである。

読者の中に、つねに目先の利益が遠い将来の利益より大きく見えてしまう人はいないだろうか。立派な計画を立てても、時間が経過すると目先の誘惑に負け、土壇場になって計画を反故にする。そんな人の中には、肥満や過度な喫煙、アルコール依存、ギャンブル依存、消費過多、重債務など健康や金銭面で問題を抱えるケースも少なくない。

実は、長期的利益を重んじると同時に、目先の利益を追求する一貫しない意思決定メカニズムが私たちに内在している。本書は、行動経済学の知見に基づき、自滅的な選択のメカニズムやそれを避けるための方策を論じたものである。最新の経済学が平易な言葉で語られ、楽しく理解できる。

行動を決める性質は遺伝的なもので、脳神経に関わる要因が影響することがわかってきた。著者らの調査では、自分がそうしたタイプかどうかは、子どもの頃、夏休みの宿題をギリギリまで後回しにしていたかどうかでわかるという。ただ、そうしたタイプでもオデュセウスのように自分の選択バイアスを的確に認識し、自滅を回避する人もいるが、多くの場合、自らを理解せず、自滅的選択を繰り返す。

対応策はあるのか。自由な選択を阻害することなく、長期的な利益と整合的な方向で意思決定ができるよう誘導するリバタリアン・パターナリズム的な方策が現実に取り入れられ始めている。ただ、最終的には誘導ではなく、自らの選択バイアスを正しく把握するような教育を施すことが重要になる。

いけだ・しんすけ
大阪大学社会経済研究所教授。主な研究領域は、マクロ経済学、国際マクロ経済学、行動経済学、ファイナンス。1957年大阪生まれ。神戸大学経営学部卒業。大阪大学で博士号取得。神戸大学経営学部助教授、大阪大学経済学部助教授を経て現職。

東洋経済新報社 1890円 269ページ

  

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