イギリスは「テロとの百年戦争」の最中にある ロンドンは、ずっと過激派の標的だった

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この前後から、イスラム過激派のテロも始まった。1988年12月22日に銀行のオフィスに出勤すると、空気が異様に重苦しく張りつめていた。前夜、パンナムのジャンボ機が爆破されてスコットランドのロッカビーに墜落し、亡くなった259人の乗客・乗員の中に、勤務先の銀行から英国の経営大学院に派遣されていた26歳の日本人行員が含まれていたのだ。犯人はリビアの情報機関に所属する2人の男だった。

2005年7月7日には、ロンドン中心街にある3つの地下鉄駅と1台のバスの中で、アルカイダによる自爆テロが起き、4人の犯人を含む56人が死亡した。シティの銀行で働いている家内は、幸いテロには巻き込まれなかったが、交通が完全に麻痺したため、25kmの道のりを約6時間かけて歩いて帰って来た。

不屈の「ジョンブル魂」

英国人たちは、人が多く集まる場所や、テロの標的になりそうな目立つ施設(証券取引所、中央銀行、高層ビル、米国大使館など)にはなるべく近づかないようにしている。繁華街に行くのは金曜日や週末の夜を避ける。持ち主不明の鞄などがあれば、すぐにその場所の管理者や警察に伝える(日本では持ち物を放置したままトイレに行ったりする「起き鞄」という習慣があるが、世界でこれをやるのは日本人だけだ)。

また交通機関が麻痺したときのために、スニーカーとデイパックで通勤する人も多い。それから中東・アフリカへの渡航経験が多い作家の曽野綾子さんも言っているが、周囲の人の数が減ったり、不穏な気配を感じたら、何も考えずに近くの建物の中に入る。理由を探してうろうろしたりすると、流れ弾に当たったりするからだ。

ただ英国人たちを見ていると、テロを怖がっている人はほとんどいない。交通事故よりはるかに確率は低いので、遭ったら遭ったで仕方がないと思っている。下手に怖がったりすれば、テロリストの思うつぼなので、危なそうな場所にも用事があれば堂々と出かけて行く。このあたりは英国伝統の不屈の“ジョンブル魂”である。

個人で1つ大きな注意を払うことができるのは、飛行機選びだ。今でいえば米、英、仏、露などの飛行機は常にテロの危険性があるので、避けた方が無難である。

去る8月にも、南アフリカ発の英国航空機の車輪収納スペースに2人の密航者が忍び込み、ロンドンに到着したときには1人が死亡、もう1人が重体になっていた。密航者が入れるくらいだから、爆弾を仕掛ける隙は十分ある。

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