【産業天気図・ビール】値上げ効果でようやく「雨」はやむか?08年度は「曇り」

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07年度のビール業界は「雨」で着地しそうだ。暖冬や猛暑に恵まれたにもかかわらず、かつ空前の新商品ラッシュを繰り広げたものの、1~11月までの総市場は前年同期比1.1%減と苦戦。新商品の広告販促費も膨張したため、07年6月中間期はキリンホールディングス<2503>、アサヒビール<2502>、サッポロホールディングス<2501>とも軒並み業績下方修正を余儀なくされるさんざんな結果となった。07年12月期通期についても、3社とも下方修正後の会社予想が未達で終わる可能性が高い。
 そんな土砂降りの07年度だったが、08年度の天気は前回(9月時点)の「雨」見通しを変更、「曇り」と予想する。その最大の要因が、ビール各社の値上げ効果だ。キリンは08年2月からビール系飲料を3~5%、アサヒは3月から同じく3~5%値上げすることを発表している。サッポロやサントリー(未上場)も検討中だ。麦芽やアルミ缶などの原料高は深刻で、07年度はキリンが80億円、アサヒが85億円の利益圧迫要因となっている。
 08年度はうまくいけば晴れ間も見えるかも知れないが、値上げによる販売数量の減少が不可避だろう。工場稼働率の低下などによるマイナスを、値上げ効果でどれだけカバーできるかが注目される。ただ、ビールメーカーは、値上げ後の価格が市場に浸透するまでは、過度なシェア争いに起因する新製品乱発や安売りは自粛する方向で、広告費や販促費の抑制が進むことは収益面では少なくともプラス材料となる。
 これは歓迎すべき流れだろう。ビール総市場は微減が続いており、シェア争いで体力を消耗する余裕はあまりない。ビール市場の飽和感から、キリンホールディングスは、協和発酵工業<4151>や豪飲料大手のナショナルフーズを買収するなど、「脱ビール」化を着々と進めている。08年度はこの買収効果で大幅な増収増益が期待できそう。また、アサヒビールもアサヒ飲料の完全子会社化により、グループ間の工場再編を加速させている。大幅な生産コスト削減効果も徐々に発現することが期待される。カゴメと共同開発したアルコール飲料「トマーテ」も好調で、第2弾、第3弾の発売に向けた準備も着々と進んでいる模様だ。一方、大株主スティール・パートナーズとのにらみ合いが続くサッポロホールディングスは、不動産事業でモルガン・スタンレーと組んで自社不動産の開発を進めるほか、赤字の飲料事業もファンド傘下でテコ入れを開始する。
 気がつけば、いずれのビールメーカーも目指すところは「脱ビール」路線。各社の戦略が功を奏すれば、その先には晴れ間が見えるかも知れない。
【前田 佳子記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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