石川遼が吐露した「ギャラリー激減」の危機感 「見られない」のはプロゴルフ選手の恥だ

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たとえば、主催者がさまざまなクライアントを招待するプロアマ戦で企業幹部の目に留まれば、ひょっとしたら世間に「顔」を売るチャンスをつかめるかもしれない。男子のプロアマで「自分の練習ラウンドに一生懸命で教えてくれない」というアマの声はまだ聞く。1年間二十数試合やって、当たりがゼロでもともと。一緒に回った人すら振り向かせられないのに、ファンが振り向いてくれる可能性は低い。トーナメントに出場する選手が4日間は無理としても1人100人、見に来てくれるファンがいたら今のような数字にはならないだろう。

ただ、石川が比較した女子もギャラリー数では微増しかしていない。アイドル的存在になっているイ・ボミが7勝しても、最終日の平均は6031人と昨年の5620人から平均400人ほど増えただけ。イ・ボミがまだその他大勢の1人だった2011年と同じレベルだった。こちらはたぶん、最終日に外国勢が優勝する可能性が高い試合が多かったことなのだろうと思える。15年は37試合中、外国勢が22試合に勝った。

ギャラリーが選手を育てる

宮里藍が出てきたころ、ギャラリーは急速に増えた。2005年の日本女子オープン最終日には2万人を超えるギャラリーを集めた。ほとんどが「藍ちゃん」を見に来たファンだった。こうした「客を呼べる」選手が、宮里藍を追うように何人も出てきたことで、2009年には最終日平均8000人を超えるまでになった。そこから徐々に落ちてきているのは、やはり外国勢に「やられすぎ」と思うファンが多いのだろう。

確かに日本のトーナメントは興行としてみると失格で、ギャラリーの数とスポンサードとはほぼリンクしない。ギャラリーが来ても来なくても、トーナメント開催とはあまり関係がない。トーナメントで黒字を生むための「ギャラリー収入」はほぼ関係ないため、そこに力を入れることも少ない。欧米の大会との違いだ。ギャラリーが「選手を育てる」ことは多分にある。

ギャラリーの声に後押しされてギャンブルすることを余儀なくされることは、海外ではよくある話だ。取材することが多い百戦錬磨の日本のシニア選手でさえ、ギャラリーがいつもより多いと「意識する」という。いいところを見せようという心理が働いて、普段はしないような?スーパープレーや凡ミスを犯す。ただ、こうした気持ちでプレーすることが、石川の言う「よりレベルの高い試合を見せないと」ということに、将来的にはつながっていくことは確かだ。

ゴルフはチームプレーではないので、プロ野球の応援団やJリーグのサポーターのようにまんべんなく個人を応援してくれるようなことはない。個人の魅力しか、応援してくれる、見てくれるという要素がない。「見てくれない」「見られない」のはプロにとって「恥」だということを、気持ちのどこかに持たないと、来年も同じようなことを書いているような気がする。

赤坂 厚 スポーツライター

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あかさか あつし / Atsushi Akasaka

1982年日刊スポーツ新聞社に入社し、同年からゴルフを担当。AON全盛期、岡本綾子のアメリカ女子ツアーなどを取材。カルガリー冬季五輪、プロ野球巨人、バルセロナ五輪、大相撲などを担当後、社会部でオウム事件などを取材。文化社会部、スポーツ部、東北支社でデスク、2012年に同新聞社を退社。著書に『ゴルフが消える日 至高のスポーツは「贅沢」「接待」から脱却できるか』(中央公論新社)。

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