インフラ復旧中心では被災地の衰退は深刻化、人口減を前提に地域振興策を--震災が突きつけた、日本の課題《3》/吉田典史・ジャーナリスト

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さらに、漁業や農業・林業など第1次産業に従事する人の後継者が減っていたこと、また、中心市街地の商業が長い間にわたり、不振であったことも指摘する。

その一例として石巻市(宮城県)を挙げた。ここは筆者も何度か訪れたが、市役所付近の商店街を歩く人は日中ですら、数えるほどしかいない。夜は8時を過ぎると、営業をしている店が非常に少なくなり、閑散とした通りとなる。10時になると1人で歩くことが怖くなる。

岡田氏は、このような状況は震災前から見られたと語る。

「経済の衰退と人口の減少は、地方の多くの市町村で起きていることではあるが、特に東北の三陸地域では進んでいた。現在のように、復旧・復興と称して街並みを元の姿に戻すだけでは、早晩、行き詰まる」

いずれは、政府・自治体が主導する“官の支援”は終わりを迎える。それに頼ることなく、企業などの“民の力”を生かした復興をするべき、という考えなのだ。

安全・安心できれいな町を造っても復興になりえない

だが、岡田氏は自治体による企業誘致の効果については懐疑的である。たとえば、釜石市では新日鉄が高炉を休止した後、関連企業も含め雇用者数は減った。ピークで9万人を超えた人口は震災前の時点で4万人を切っていた。

「企業と自治体との双方が良好な関係を長く維持することは難しい。最近(09年)では、亀山市(三重県)に進出していたシャープの工場の一部のラインが中国企業に売却され、生産を縮小するにいたった。多くの税金を投じて誘致した工場は閑散としているが、それが現実だ」

筆者が、地元の自治体や住民からは、シャープの撤退という判断に疑問の声が上がっていたと指摘すると、岡田氏はこう答える。

「そもそも、企業とはドライなものであることを忘れている。特にメーカーは産業構造の変化に直面している。このような時代を乗り越えるのは相当に厳しい。進出企業の縮小や撤退は、今後も状況いかんではありうる」

今度は、トヨタグループが東北進出を加速させていることを聞いてみた。たとえば、デンソーは今年4月、岩手県金ケ崎町にある富士通関連の半導体工場の子会社化を発表した。岡田氏は「復興支援とも受け止めることができるが、今後、どうなるかは現時点でではわからない」と答える。そして、こう付け加えた。

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