最高益HIS、忍び寄る海外テロに一抹の不安 海外旅行事業に吹き寄せるイベントリスク

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古い建物や文化が魅力的な欧州だが、実は日本人の渡航先としては、さほどポピュラーではない。日本政府観光局によると、2014年にフランスを訪れた日本人の数は約48万人。米国の357万人(ハワイ含む)や中国の271万人よりもケタがひとつ少ない。欧州域内ではドイツの71万人に大きく差を付けられている。

欧州向けは10%強と意外に低い

欧州への依存度は低いと語る平林社長

HISの海外旅行のうち、欧州向けの取扱人数は10%強に過ぎない。欧州よりも、ビーチや東南アジア向けが主力となっている。

これは、同業のKNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリストとクラブツーリズムの持ち株会社)も、同じだ。

同社の売上高約4300億円のうち、海外旅行のシェアは35%で、そのうち欧州方面の取扱人数は14%にとどまる。

そもそも、足元の円安やイスラム国(IS)によるテロなど情勢不安を受け、日本人の海外旅行は低調ぎみ。出国者数は2012年の1849万人をピークに、3年連続で前年割れが確実となっている。

日本と同じように、欧州も冬場の冷え込みが厳しいため、旅行需要が盛り上がるのは例年春から秋にかけて。フランスで起きたテロ事件の影響は、比較的観光客の少ない時期だったこともあり、直接的な影響は限定的と見られる。

しかもHISは、テロ事件の直後に、ツアーが催行中止になったり、無償でキャンセルした顧客に対して、同じ日程で行けるアジアやオーストラリアといったエリアを推薦し、顧客離れを防いできた。

問題は2016年春以降の集客がどう動くかだ。平林社長は「テロ事件の影響は読めない」としながらも、「2月以降は流れが変わって好調になりそうだ」と自信を示す。

その理由として、学生の就職内定率が上昇したことで卒業旅行が増え、また冬の賞与が増えたことで可処分所得の膨らむOLの旅行が増えていること例示した。

ただ、冒頭の旅行会社の首脳は、「テロが続けば業界への影響は避けられない」と不安げ。もし海外で、日本人が何らかのテロに巻き込まれた場合、海外旅行は一気に自粛ムードに流れてしまう。

フランスの前にはトルコでは自爆テロが、エジプトでロシアの旅客機が墜落。12月5日には米カリフォルニア州の福祉施設で、イスラム国(IS)の支持者により乱射事件が起きて14人が死亡するなど、不安要素は少なくない。

各国で広がりを見せるテロ事件だが、今のところ日本には目立った影響が出ていない。HISはこのまま無風で2016年も好調を維持できるか。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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