【産業天気図・石油】原油上昇急で転嫁追いつかず、再び「曇り空」が広がる

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原油相場の騰勢を受けて、石油業界に「曇り空」が広がってきた。株式市場では原油高を手掛かりに一時、石油元売り大手が物色人気を集めたが、最近は一転して軟調な展開となっている。10月以降の油価急騰に伴う石油製品への価格転嫁の遅れが今2008年3月期下期以降、収益を圧迫する公算が大きく、石油元売り大手各社の今期経常利益は在庫評価益を除く実質ベースで減益を余儀なくされる見込み。株価はそうしたシナリオを織り込み始めたとも受け取れる。07年度後半の業界天気も、前回(9月時点)の「晴れ」から「曇り」へと悪化しそうだ。
 3月期決算の大手4社のうち、新日本石油<5001>、新日鉱ホールディングス<5016>、コスモ石油<5007>の3社が原油の在庫評価に総平均法を採用。油価の上昇時には期初の安値在庫を原価に含むため、利益がかさ上げ(在庫評価益が拡大)される。
 最大手の新日本石油の今08年3月期経常利益は、前07年3月期比約39%増の2600億円を見込む(会社予想ベース)。だが、これは上記の理由で850億円の在庫評価益が発生し、利益を押し上げるため。評価益を除いた真水ベースでは、同約11%減の1750億円と、実質減益になる見通しだ。  
 足を引っ張るのは石油精製・販売部門。原油調達コストの上昇に価格転嫁が追いつかず、部門別の実質経常損益は26億円の赤字になりそうだ。
 これまでアジア需要増の追い風が吹いていた石油化学製品部門を取り巻く環境も急変している。同社では第1四半期(07年4~6月)決算を発表した7月時点では、同部門の今期経常利益を662億円と見ていたが、9月中間決算発表時には375億円へ下方修正した。パラキシレンとドバイ原油のマージンが7月時の想定に比べて2割強減少するのが響いている。マージンが悪化したのは、ポリエステルの中間原料である高純度テレフタル酸(PTA)の生産設備が中国で拡大したのに伴い、PTA市況が軟化しているのが主な要因だ。
 原油高が重荷になっている構図は、同じく業界大手の出光興産<5019>の業績推移から読み取れる。同社は在庫評価に「後入れ先出し法」を採用しているため評価益が発生しない。つまり、見掛け上の利益に“実力”がストレートに反映されるというわけだ。
 同社の08年3月期経常利益見通しは、第1四半期決算を発表した8月時点の860億円から820億円へ下振れしそうだ。新日石と同様、原油高の影響を価格転嫁で吸収しきれず、石油製品の採算が悪化。パラキシレンなど石油化学製品のマージン縮小も足かせになっている。
 一方、原油高で恩恵を受けるのが「上流」の資源開発事業だ。新日石の石油・天然ガス開発部門の経常利益は、真水ベースで全体の7割強を稼ぎ出すまでに拡大。出光の石油開発部門の利益も、当初計画からの上振れが濃厚だ。それでも、石油精製・販売部門などの採算悪化を完全には吸収しきれない。
 原油に対する世界需要の旺盛さや、原油市場に欧米年金などの長期資金が流入している点などを踏まえると、08年以降も油価急落は考えにくい。ただ、仮に高止まりした場合でも安定して推移していれば、会社側にとっては川下への価格転嫁が進めやすい。08年度に天候が「曇り」から「晴れ」へと転じるかどうかは、原油の値動き次第といえそうだ。
【松崎 泰弘記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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