欧州危機、悪循環の遮断を図った首脳会議の成果と問われるスピード感

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声明文では監督システムの枠組みを2012年末までに検討するとしており、正式な開始時期は未定。6月にユーログループ(ユーロ圏財務相会合)はスペインの国内銀行に対し最大1000億ユーロを支援する用意があると表明しているが、こちらについては従来の仕組み通り、いったんは国に貸し付ける形で銀行の資本注入が行われる。

そうすると、スペイン政府の債務拡大が懸念される悪循環に陥りかねないが、今回の首脳会合はこの点でも手を打った。時限組織のEFSFの融資は民間投資家と同列の扱いだったが、ESMが行う融資についてはほかの債権よりも優先的に返済される取り決めになっている。この優先権の取り扱いが市場から嫌気され、スペイン国債の売りを強めたともみられる。そこで今会合ではスペインへの融資はESMが優先的な扱いを受けないことにした。いわば“特例措置”だ。

民間投資家が割を食う仕組みが取り払われたことで、一時7%台を突破したスペインの10年物国債利回りは6%台前半までひとまず落ち着いている。ただし、6月下旬にスペインはユーログループに対して正式な支援要請を行ったが、具体的な資本注入額が決まっておらず、問題解消は緒についたばかり。不安定な状況に変わりはない。

6月26日にファンロンパイ大統領が「新の経済・通貨同盟に向けて」と題して発表した文書では、EU圏における金融や予算、経済政策のフレームワークを統合することを重要なポイントとして挙げている。これを議論のたたき台として年内には工程表をまとめ、10月には中間報告を出す見通し。
 
 答えを急ぐ市場が取り組みスピードが遅いと判断すれば、またも金融市場が不安定化しかねない。ユーロ共同債の発行にドイツが強く反対するなど、各国の思惑は交錯したまま。EU、ユーロ諸国がかつてないスピード感を要求され続けることだけは変わりない。
(井下健悟 =東洋経済オンライン)

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