IS打倒でロシアと西側が連携?ありえない! プーチンにとって、国民の生命は二の次だ

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それでも、プーチン政権はいつも無傷で立ち上がってくる。実際、世紀の変わり目に起こった数々のテロ攻撃は、チェチェン反乱軍に対する世論を定め、チェチェン共和国の首都グロズヌイを壊滅させるのに必要な国民的支持をプーチンに与えてしまった。

プーチンがテロ対処に自信を持っているのは、ロシアの保安体制の賜物だ。ロシアは国防よりも、国内の保安に多くの予算を費やしている。ロシアは内務省部隊、連邦保安局(FSB)特殊部隊、特別任務民警支隊、軍の諜報部隊、そして内偵や情報提供者の広範なネットワークを有している。

政権反対派は公職選挙への立候補が認められておらず、デモをする権利も制限されている。そして裁判で、彼らは恣意的な扱いをされやすい。事実上、市民は盗聴や電子通信傍受から守られていない。

すべての社会は、市民権と国家安全保障とのバランスを取る必要がある。欧米が、自由主義者からはそうではないと抗議されつつも、市民権の重視を選択してきた一方、プーチンのロシアはその逆の方向に振れてきた。

ロシアでは人命の値段は安い

ロシアは実際のところ、テロ行為を抑えるためなら国家権力はどこまでやれるのかを示す見本なのだ。ベスラン学校占拠事件の実行犯にロシアの諜報員が潜入していた証拠すらある。

さらに、どんなテログループも、情け容赦のない攻撃を受けることを知っている。たとえばベスランでは、ロシア特殊部隊が、爆風によって人体内部を損傷させる「サーモバリック兵器」を使用した。

パリの同時テロに対する反応が示すように、130人の市民が犠牲になった無差別殺人は、表面的には西欧の巨大な共鳴をもたらしたように見える。しかし、ロシア政府は人命に、西側よりも低い価値しか認めていない。プーチンの計算では、過激派の攻撃で生命が失われるのは歓迎できないことだ。しかし、その攻撃が政権を脅かさない限り、つまるところは許容範囲内なのだ。

ロシアの人々は、怖がり怯えているかもしれない。しかし、ロシア政府が気にかけているのは第一に政権自体の存続で、次に国民の恐怖を政権の利益にどう利用するか、という点だ。イスラム国と戦うために西側と組んだところで、こうした目的には何の役にも立たない。

ポール・R・グレゴリー 米ヒューストン大学教授

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ポール・R・グレゴリー / Paul Roderik Gregory

米ヒューストン大学教授。同大学フーバー研究所リサーチフェロー。ドイツ経済研究所(DIW)リサーチ・アソシエートも兼任。

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