日本の森林が危ない、外資の買収に、所有者の所在不明 

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所有者が不明となるのは、相続時に不動産の登記手続きをしないケースがほとんどだ。登記には手数料がかかり、資産価値の乏しい森林を登記するメリットも少ない。そのため、都市に移住した人を中心に登記も届け出もしない人が増えている。また、祖父母の代が所有していた森林について息子や娘の代で相続手続きをしていなければ、その下の孫の代では相続したことすら知らないケースもある。

登記簿自体の信頼性も低い。「森林では境界を明確にしにくいうえ、明治時代の地租改正で土地の面積が意図的に狭く測量されていた」(小林洋光行政書士)という背景もあり、実際の土地の場所や面積が登記簿と大きく異なるケースが多い。境界を確定する地籍調査は12年3月末時点で50%の進捗にとどまっている。ドイツなど100%に近い海外先進国と比較すると、日本の国土管理の遅れは際立っている。

所在が不明となった登記簿上の所有者を1件1件確認していく作業には限界があり、国や自治体はお手上げ状態だ。森林所有者は高齢化が進んでおり、今後は所有者不明の森林が一段と増えていくと予想されている。これに対策が追いつかなければ、災害時の迅速復旧困難化や不法投棄の増加などで住民生活が脅かされかねない。

フィンランドやスウェーデンに次ぐ世界有数の森林率(国土面積に占める森林面積の割合)7割弱を誇る日本。だが、林業は国産材の低価格化などで苦境に陥っている。くしくも国が大規模集約化による再生を図ろうとした中、次々に明らかになった外資買収や所有者不明の問題。一筋縄には解決できそうにない。

[写真]「FOR SALE」と書かれた看板が置かれたニセコ地区の森林(東京財団提供)

(島大輔 =週刊東洋経済2012年7月7日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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