子育て支援の切り札が「保育難民」を生む矛盾 鳴り物入りで始まった新制度に困惑の声

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新制度に移行すれば、保育料にまつわる仕組みも変わる。市区町村が所得に応じて保育料を決定し、園が徴収する形を取るが、これを受け入れられない園は多い。

「事務的な手続きが煩雑になるだけでなく、子どもによって保育料が異なることが保護者の間で心理的な軋轢を生みはしないか、という懸念もある」(内野園長)

練馬区は独自制度を創設

こうした声を受け、動き始めた自治体もある。東京都練馬区は今年度から、区独自の「練馬こども園」を創設。9月に13園を認定し、長時間保育を行う私立幼稚園に補助金を出している。区による利用調整は行わず、預かり保育料は各園が決める。「幼稚園側の気持ちに配慮した」と、子ども施策企画課の柳橋祥人課長は言う。

練馬区が区内の子育て家庭を対象に行った調査では、保育所よりも、教育の充実した幼稚園で預かり保育を利用したいニーズが多かった。そこで、区の実態に即した幼保一体の施設として、練馬こども園を創設した。

母親の就労や待機児童の状況は地域によって異なるため、全国一律の制度を普及させるには限界がある。練馬区のような取り組みが進まない限り、抜本的な待機児童の解消にはつながらない。

ゆりかご幼稚園の内野園長は「幼稚園も保育所も、子どもの視点で考え、いろいろなスタイルで対応すべき。ところが、(制度改正により)かえって硬直化してしまった」と嘆く。実情に照らして柔軟に園を運営できる方法を考えた結果、旧制度に立ち返らざるをえなかったというのは、なんとも皮肉な話だ。

「週刊東洋経済」2015年12月12日号<7日発売>「核心リポート04」を転載)

堀越 千代 東洋経済 記者

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ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

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