ファイザー、19兆円の巨額買収に透ける苦境 製薬首位の座を奪還も、冷めた見方広がる

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これに米政府は、M&Aによる租税回避に対する規制強化を打ち出している。2016年の米大統領選挙に出馬するヒラリー・クリントン氏が、「この合併で米国の納税者が貧乏くじを引かされる」とファイザーを非難するなど、政界からの反発は強い。

2016年後半に予定している買収手続きを完了させるには、欧米の規制当局の承認を得る必要がある。アラガンの株価は12月2日時点で317ドルと、買収価格の363.63ドルよりも低水準で停滞。株式市場は買収完了を完全に織り込んではおらず、今後は紆余曲折を経る可能性もある。

国内製薬業界に危機感

ひるがえって、日本の製薬企業はM&A市場で蚊帳の外に置かれ、存在感に乏しい。国内最大手の武田薬品工業も、世界では17位(2014年)にとどまっている。

バークレイズ証券の関篤史アナリストは、国内企業がメガファーマによる買収の標的になる可能性は低いと見る。「以前は、日本市場に参入するために日本企業を買収するという意義があったが、今やほとんどの外資系は日本法人を持っている。解雇による合理化ができないことも、買収を阻む要因だ」(関氏)。

国も危機感を抱く。厚生労働省は9月4日に発表した「医薬品産業強化総合戦略」の中で、「医薬品の研究開発コストの増加やグローバルでの事業展開を考慮すると、日本の製薬メーカーもM&A等による事業規模の拡大も視野に入れるべきではないか」と、踏み込んだ記載をした。

英調査会社のエバリュエートファーマによると、世界の医療用医薬品売上高は、新興国市場の拡大などで、2020年に2014年の約1.3倍となる1兆ドル程度に拡大する見通しだ。ただ、制度が未整備な新興国の開拓は一筋縄ではいかず、欧米のメガファーマとの厳しい競争も待ち構える。

国内製薬業界の大型再編は、2005年のアステラス製薬(山之内製薬と藤沢薬品工業)、第一三共(三共と第一製薬)の発足以来、10年間途絶えたまま。生き残りを懸けた次の一手はありうるか。

「週刊東洋経済」2015年12月12日号<7日発売>「核心リポート03」を転載)

長谷川 愛 東洋経済 記者
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