実践で見えてきた、タブレット学習の「功罪」 データが生徒の「知の集合体」になっていく

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タブレット端末を用いると、国語の授業はどう変わる?

佐賀県内の公立高校で行われているICT(情報通信技術)を活用した授業。電子黒板や1人1台のタブレット型学習用パソコン(PC)を使い、新たな教育のかたちをデザインする取り組みを追うシリーズ、今回は佐賀市の高志館高校1年園芸科学科で国語の授業を取材した。

生徒が能動的に学びに参加するアクティブラーニング(AL)を取り入れている高志館高の山信史子先生(39)。国語の授業で芥川龍之介の「羅生門」を題材に、下人が盗っ人となるまでの心情の変化から人間のエゴイズムを考える哲学的なアプローチに挑んだ。生徒はグループディスカッションを通じ、自分の考えを再構築していく。

羅生門で、老婆が死人の髪を抜いていたのは、飢え死にしないために仕方なくやったことだと話すのを聞いて、下人も老婆の着物を剥ぎ取り盗っ人になる――。物語の最後の下りが、今回の思考を深める題材だ。

実録!アクティブラーニングはこう進める

当記事は佐賀新聞LIVEの提供記事です

「投票をします」。山信先生は(1)老婆に出会わなければ下人はどうなっていたか(2)生きるために働く『悪』は許されるのか。電子黒板に二つの質問を示し2択で問い、生徒は学習用PCから選んで投票する。結果はすぐに電子黒板に映し出された。(1)は「盗っ人にならなかった」、(2)は「許されない」が、もう一方の倍近い票を得た。

「では、そう考えた理由を考えましょう」。生徒たちは4人程度のグループに分かれたり、単独で挑んだりする。グループでは、学習用PCを互いに見せ合い、時にはのぞき込み、積極的に意見を交わす。最初から話し合って考えをまとめているグループがあれば、個人で書いた後に良い考えを合体させているグループもあった。

話し合いや考えが一段落した頃合いを見計らい山信先生は、芥川が最後の一文を、下人は強盗を働いたと行動を明確に書いた文から「下人の行方は、誰も知らない」へ変更したことを電子黒板で説明。そこから「芥川は『下人』を通して何を問いかけているのか」と投げかけた。ヒントとして「悪が正しいと言えるのは、どんな時があるか」「罪の意識に耐えられるか」などのポイントも助言した。

先生は席を離れてグループ以外の人とも自由に意見を交換していいと指示した。生徒は端末を手に頼りになる人や同じ意見を持っている人の所へ移動、討議はさらに熱を帯びていく。教室のあちこちに話し合いの場ができ、教室はにぎわいを見せた。

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