(第54回)残酷なほど明白な日米取引所の実力差

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すでに述べたように、NYSE上場の中国企業の時価総額は約1兆ドルだ。その3%が手数料と考えると、300億ドル(2・4兆円)である。これだけの手数料をアメリカ投資銀行は、「元手なしで」(他人の金で)稼いだことになる。

仮に中国企業が日本に上場したのであれば、日本企業がこれだけ稼げたはずだ。2・4兆円といえば、日本のGDPの0・5%である。

上場に伴って発生する報酬は、IPOの手数料だけではない。上場の維持には監査報告が必要で、そのため監査事務所が報酬を得る。

この数年、いくつかの日本企業がNYSEでの上場を廃止したり、廃止を検討している。それは上場維持に要する費用負担に耐えられないからだ。これを逆から見れば、アメリカの投資銀行や監査法人が、膨大な報酬を得ていたことを意味する。

こうした報酬を獲得できるのは、専門人材の力である。日本が金持ちになってからせいぜい20年程度しかたっていないので、英米との差は止むをえないとも言える。しかし、現状は何とも情けない。

日本人の資産運用の観点からも、外国企業の日本市場上場は重要だ。日本市場で中国企業に投資できれば、為替リスクを直接に負うことはない。また、企業の情報が日本語で得られる。それによって、中国の経済成長の成果を、日本の投資家も享受できるのである。

日本の対外資産は、非常に低い利回りで運用されている。アメリカ10年債の利回りも実現できていない。資産大国日本にとって何より重要なことは、資産を賢く運用することなのである。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年7月7日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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