きつい離婚の後に待っていた「最高の晩婚」 10年間、姑と同居したあげくに夫が浮気… 

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最初のデートは雅彦さんが選んだ川崎市内の串揚げ店だった。気取らない雰囲気の中で飲み交わし、お会計では1000円だけゆかりさんが出して残りは雅彦さんが払ってくれた。全額おごってもらうのも気が引けるし、割り勘も野暮だと感じているゆかりさんは、大人の気遣いができる雅彦さんに惹かれていった。

妻に求める「2つの条件」

雅彦さんには結婚相手に求める2つの条件があった。ひとつは共働きができること。自分の給料だけでは、2人の大人が余裕を持って明るく暮らしていけないと感じていたからだ。もうひとつの条件は、お互いの家族を大事にできること。雅彦さんには東北地方に父親と兄夫婦がおり、子育てをしながら父親の世話もしてくれている義理の姉には深く感謝をしているという。

「兄夫婦へのお礼の気持ちも込めて甥っ子と姪っ子をかわいがるようにしているので、ゆかりが子どもたちに懐かれているのを見ると嬉しいです。最近はオレひとりで帰省すると『ゆかりちゃんはどうして来ないの?』なんて抗議されますからね(笑)」

20年以上も関東地方でひとり暮らしをしてきた雅彦さんだが、ゆかりさんとの共同生活は意外なほど心地良いという。家事はすべてゆかりさん任せだが、部屋が少々散らかっていたり、食事がコンビニ弁当だったりしても文句は言わない。

「そんなことは必須ではないからです。家事をもっとしたいから専業主婦になる、なんて言われるのがいちばん困りますね。仕事が忙しくて料理ができないときは外食に誘っています。もちろん、オレが出しますよ。口も手も出さないけれど金は出す、という結婚生活です。家のローンや公共料金はこっちで、その他の生活費はゆかりが出してくれています。おかげで海外旅行も行けるし、甥っ子たちにもプレゼントを買える。大いに助かっていますよ」

ゆかりさんのほうも現在の生活に深く満足している。そのことは、雅彦さんの顔を見る穏やかな眼差しから伝わってくる。

「雅彦さんは保育園の仲間とも一緒に飲んでくれるし、大変なときは愚痴を聞いてくれます。夕食がコンビニ弁当なので謝っても、『そんなことはかまわないけれど体は大丈夫か。仕事で無理してないか』と心配してくれるんですよ。いつも保育園で(夫の)自慢をしています」

愛する地元から遠く離れた土地で「生きていてこんなに不幸なことが起こるのか」と哀しみと孤独に震えていたのが6年前。あの頃のゆかりさんは今の溌剌とした自分を見て何を思うのだろうか。生きてさえいればこんなに幸せな日々にまた巡り合えるのか、と驚くはずだ。苦しい離婚経験がなかったら優しい雅彦さんと出会うこともなかっただろう。冬来たりなば春遠からじ。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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