南沙を巡る争いは、台湾存続の命取りになる 領有権巡り「フィリピンが敵」という自己矛盾

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念のために記しておくが、国民党政府は防衛政策を変えたのではない。カーター国防長官が11月7日、米国が台湾に対する義務を履行することを再確認する発言をしたのに対し、台湾国防部の羅紹和スポークスマンはカーター長官の発言を積極的に評価し、「台湾の防衛能力が向上することは台湾海峡の平和的発展に寄与する。米国の政策にも合致する」と述べている。これは台湾の防衛について米台の方針が一致していることの重要性を再確認する発言であり、従来から維持してきた台湾の防衛政策は変わっていないことを示している。

今後の台湾の政治にとって、台湾海峡のみならず南シナ海も、また、東シナ海も大きな問題だ。

国民党は、今回の声明を見ても「十一段線」にこだわっている。しかし、それは中国大陸を取り戻した場合に主張できることであり、台湾を中国から守らなければならない現状ではそもそも無理な主張だ。国民党が今後もこのような主張を維持していくと防衛政策の矛盾をさらに拡大させる危険がある。

米国・日本側の陣営に加われるか

一方、民進党の考えは明確でないが、大方の見方どおり来年の総統選挙で政権に復帰すれば、いずれ南シナ海についての態度を問われることになろう。民進党としても台湾のナショナリズムを無視できないが、同党には中国大陸を奪回したいという気持ちはもともとなく、その点では米国と歩調を合わせやすい。

これは台湾が台湾として存続し、それ以上拡大しないことを意味しており、中国大陸から離れることを意味する台湾独立とは別問題だ。

国民党政権は南シナ海だけでなく尖閣諸島についても領有権を主張している。台湾における政権交代によって尖閣諸島に対する態度にも変化が生じてくるか。速断はできないが、民進党が国民党のように膨張主義的でなければ、台湾防衛に関する米国との矛盾だけでなく、尖閣諸島に関する日本との矛盾もなくなる関係にある。

台湾を中国の脅威から守るためには、武力統一を認めないという米国のコミットメントが不可欠であり、それを揺るがせないためには南シナ海に対する領有権主張は過去の遺産として放棄することが望ましい。そして、中国の違法な行動に対抗する国際的連帯の形成に努めている米国と日本に参加することが台湾の利益になるはずである。現在のところ、歴史的経緯を無視するわけにはいかないかもしれないが、台湾が向かうべき大きな方向は明確ではないか。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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