ホンダが定年延長でシニアを戦力化した理由 人事制度を刷新、全社員にも変化を促す

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今年7月の就任会見で抱負を語る八郷隆弘社長。いよいよ改革が動き始めた(撮影:尾形文繁)

ホンダが国内自動車メーカー初となる、定年を65歳にまで延長する方針を明らかにした。企業の雇用に詳しいニッセイ基礎研究所の松浦民恵主任研究員は、「ホンダの定年延長制度導入はインパクトが大きく、他の大企業が検討に乗り出すきっかけになる」と、この動きが今後広がっていくと見る。

具体的には国内の従業員約4万人の定年を60歳から65歳に延長。合わせて、子育てや介護をする社員向けの制度も拡充する。今後、少子高齢化で労働人口が先細りする中、労働条件を大幅に見直すことでより働きやすい会社への転換を目指す。会社と労働組合の間では大筋で合意をしており、労使の協議を経て2016年度中の正式導入を目指す。

ホンダでは、2010年度から60歳の定年退職後も希望すれば65歳まで働き続けられる再雇用制度はあった。再雇用の契約を結んで働き続ける社員は現在5割から6割程度。給料は現役時代の約半分にまで下がり、負担の重い海外駐在をさせないと労使間で定めるなど、活躍の場が限定されていた。

定年を65歳まで延長する新制度下では、給料は現役時代の約8割を保証。海外駐在の道も開く。これから一層の発展が見込まれる新興国の現場では、技術伝承の観点からも経験豊富な人材の需要が高まっており、中国やアジア諸国への派遣を視野に入れる。

バブル入社組へ一定の配慮

ホンダが定年延長に取り組む個別の事情もある。社員の平均年齢は44.8歳。トヨタ自動車の39.1歳や日産自動車の42.7歳など同業他社と比較すると高い。「社員の年齢構成では、40代後半から50代前半がボリュームゾーンになっているため」(ホンダ人事担当)だという。

この世代は、1990年前後に入社したバブル世代だ。彼らの多くが60歳を迎える2025年には、厚生年金の報酬比例部分について支給開始年齢が現在の61歳から65歳に引き上げられる。60歳で退職した場合、65歳で年金をもらうまでは無年金になる。こうした事態を防ぐために、国は2013年に「改正高年齢者雇用安定法」を施行。あらゆる企業は、希望する従業員を全て「65歳」まで雇用しなければならなくなった。

ただ定年延長を行ったり、定年廃止を決めたりした企業は少なく、ホンダを含む大半の企業は再雇用制度を実施しているのが実情だ。給与水準は現役時代の5~6割程度に抑えられている。大企業での定年延長制度の導入は、イオンやサントリー、大和ハウス工業などに限られ、製造業ではなお少数派だ。

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