甲状腺被曝の実態は未解明 福島県の意向で調査中止も

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政府は昨年3月下旬、いわき市、川俣町、飯舘村で1000人強の子どもを対象に甲状腺被曝状況の調査を実施。1歳児の甲状腺等価線量100ミリシーベルトに相当する毎時0.2マイクロシーベルトを超えた子どもはいなかったと発表した。ただ、簡易検査だったため、放射性ヨウ素による被曝線量を直接測ることはできていない。

精密な機器を用いて放射性ヨウ素による甲状腺の被曝状況を測定したのが、弘前大学被ばく医療総合研究所の床次眞司教授らのグループだった。

床次教授らは昨年4月12~16日に、南相馬市からの避難者45人および浪江町津島地区の住民17人、計62人の甲状腺中の放射性ヨウ素を測定。46人から放射性ヨウ素が検出されたものの、呼吸による摂取時期を3月15日と仮定した最新の分析結果では、「乳幼児を含む全員で(IAEA〈国際原子力機関〉が定めた安定ヨウ素剤服用の基準である)50ミリシーベルトを超えていなかったと考えられる」(床次教授)という。

そのうえで床次教授は、「当時、津島地区に多くの乳幼児が避難で滞在していたと仮定すると、50ミリシーベルトを超える子どもがいた可能性は否定できない」とも指摘。「ハイリスクの子どもを特定したうえで、継続的な健康支援が必要だ」と強調する。

惜しまれるのは、被災者への個別調査を嫌う県の意向を受けて同調査が5日間で中止を余儀なくされたことだ。

国は事故直後の初期被曝の実態解明に取り組もうとしているが、放射性ヨウ素が減衰した現在では新たなデータ取得は不可能。初期に集められたあらゆる手掛かりを用いて当時の被曝線量を推計するしかないのが実情だ。

(週刊東洋経済2012年6月30日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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