ボーナスの「無駄遣い」を防ぐ超簡単な方法 行動経済学で「買いたい感情」を抑制する

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これを、行動経済学では「メンタルアカウンティング」と言います。この言葉は直訳すれば「心の会計」となりますが、人間の心の中にはいくつもの「会計勘定=心の財布」が存在し、残念なことにそれらがまったくトータルには考えられていないということなのです。

メンタル・アカウンティングを逆用すれば損が防げる

具体的な例でお話しましょう。たとえば、田舎の貧しい母がやりくりして仕送りしてくれた10万円と、たまたま競馬で勝った10万円、あなたはどちらから先に使いますか?

誰が考えても、普通なら競馬で勝ったおかねのほうを使うはずです。でも合理的に考えると、これは不思議です。なぜならどちらも同じ金額、同じ購買力を持った10万円ですから、どちらから先に使おうが関係はないはずです。おかねに色はついていません。

でも人間の心理を考えると、母が送ってくれた10万円から使う気にはなれないはずです。やはり、おかねに色はついているのですね。心の中では「やたら使ってはいけない、尊い10万円」の勘定と「パーッと使ってもかまわない、あぶく銭の10万円」の勘定という具合に仕訳されているということです。これも間違いなく、メンタル・アカウンティング(心の会計)です。

このようなメンタル・アカウンティングを利用して心理的な抵抗を設けることによって、無駄な買い物や惰性による買い物を防ぐことができます。それが前述の「ボーナスは全額、定期預金に入れて、大きな買い物は定期預金を解約する」という方法なのです。

定期預金に入っているおかねとボーナスで受け取ったおかね、両方とも自分のおかねであることは変わりません。でも、心の会計上は「“使ってもかまわない”ボーナス」と「“使ってはいけない”定期預金」の2つに仕訳されていますから、使ってはいけない勘定から引き出すことを検討すれば、より厳格に購入審査をするという行動につながるのです。

買い物や投資といった経済活動においては、冷静に計算をして考えることが必要です。ところが多くの場合、人は“勘定”ではなく、“感情”で判断することになりがちです。

これは人間の心理を考えると、ある程度仕方のないことです。その結果、知らないうちに損をしていることも多いでしょう。ところが今回のように“感情”で判断することを逆に利用すれば、未然に損を防げることもある、と知っておいていただきたいと思います。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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