マンション販売現場はこんな状態でも強気だ 広がる「杭打ち不正問題」の影響を探る

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「このたびの横浜のマンションの件ではお騒がせをいたしまして申し訳ございません」。こう切り出した営業担当者だったが、杭問題による影響について聞くと、やはり「質問はよくお受けしますが、みなさん概ね理解してくださっています」という。率直に言えば「身構えていたほどではない」そうだ。「今朝初めて応対した方も、即決でお申し込みをされていきました」といい、売れ行きに陰りは感じさせない。

「ほかの人はともかく自分は杭工事に不安を感じている」と伝えると、当日夕方に開催される「構造セミナー」を案内された。事前の調べではこのセミナーはすでに満席のはずだった。担当者によれば、希望者が多く追加開催を決めたのだという。

セミナーの講師は、元請け施工会社の大成建設の社員で、このマンションの構造設計部門の責任者だった。「このマンションは現場施工杭なので、問題となっている電流計ではなく、穴を掘ってかき出した土を目視するという確実な方法で支持層を確認できます。検査も終わっているのでご安心ください」

杭問題が社会問題化している最中だけに、会場にはピリピリした空気が漂っていた。講師はひと通り説明を終えると、「個別のご質問がございましたら、営業の方を通じて書面で回答させていただきたい」と断りを入れたが、参加者が食い下がって杭の安全性を問うシーンもあった。

セミナーが終了し、帰路につく参加者に不安が払拭されたか尋ねてみた。時折うなずきながら熱心に聞き入っていた女性に声をかける。しかし、「私にはわからなかった」との返答で、詳しい話を聞くことができなかった。

「杭問題の影響はこれから」

不動産経済研究所によると、10月の首都圏における発売マンションの契約率は68.8%と好不調の節目とされる70%を下回った。杭問題が表面化したのは10月14日からで、この契約率には半月分の影響が出ていることになる。業界関係者には「杭問題の影響が出てくるのはこれから」と身構える者もいる。

それでも、販売現場は依然として“強気”のスタンスを崩していない。不動産コンサルティング会社トータルブレインの杉原禎之専務は、「杭問題はすでに入居している住民が心配することで、これから買う人に影響はない」として、駅近の好立地物件を中心とした活況が続くとみる。「来年は坪(3.3平方メートル)当たり600万~700万円という超高値の売り物がどんどん出てくる」(杉原氏)。

ここ数年のマンション市場は、高額物件を中心に販売が好調だった。金融緩和に伴う超低金利で不動産投資も活発に動いている。杭問題は不安材料ではあるが、ここは積極姿勢を崩す場面ではない――。今の販売現場のスタンスを総括するとこうなるだろう。

不動産は年度末にかけた1~3月が最も動く時期。そのかき入れ時に、いかに顧客の杭問題への不安を払拭するか。さまざまなセールストークを駆使しながら、販売現場では強気の姿勢が続きそうだ。

週刊東洋経済編集部
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