街角に住む猫には、過酷な運命が待っている ペット界の新王者「猫」を取り巻く光と影<下>

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品川区を中心に野良猫の保護や不妊手術、里親探しを15年間続けてきた自営業、岸雪子さんは、「ボランティア間の連携を取るのは本当に難しい。猫を助ける目的は同じなのに、みな個性が強く、自分のやり方を通そうとするからだ」と嘆く。

岸さんの経験を幾つか紹介する。自身の餌やりが原因で増えた猫を不妊手術したいと言ってきた年金生活者に捕獲器を貸したものの、使い方を覚えようとせず、猫が入るまでの見張りすら断られた。公園で暮らす猫の里親が何とか見つかった時、餌やりに参加している女性の1人が「私の猫を連れていくな」と怒り、話が流れかけたこともあった。

外にいる猫を捕獲して人馴れさせるには手間と忍耐が必要だ。医療費は病院側の言い値のため、良心的な獣医を見つけないと費用もかさむ。こうした苦労を経て里親募集にこぎ着けた猫を、ボランティアが相手の身元を十分チェックせず渡す例もある。「里親詐欺」による転売や虐待が相次いでいると警告すると、「人を疑うなんてできない」との答えが返ってきた。これも中途半端な善意ではある。

あと少しだけ、勇気と工夫と配慮を

飲み屋街の一角にある餌場で、水などを取り替える廣井さん。この場所はもうすぐ、工事に伴い立ち入り禁止になる。

こうした現実を打開するヒントとして飲み屋街の廣井さんに話を戻す。彼女は毎日、店の休憩時間や夜間に「猫のトラブル減らします」とのたすきをかけ、自転車で武蔵小山各地の餌場を回る。警戒感が強く、すぐには食べない猫もいるため、餌を入れた器の下に「この器は15分で回収します」と書かれた紙を敷き、他の場所を回って戻ってくる。当然、糞尿も掃除している。

本人いわく、苦情が少ないのは、猫嫌いの人の存在にも配慮しながら、目的を明確に説明して堂々と活動しているからだ。飲み屋の一部からは当初、反発もあったが、猫のために餌と水を軒先に置いてくれる店も出てきたという。

もの言えぬ小さな命を助けたいと考えるのは、人としての自然な感情だ。そして、他人へのちょっとした配慮や工夫、そして勇気の持ち方次第で、猫たちの運命は簡単に変わる。人間の側は、こうした事情を心に刻むべきだろう。不動産や株のバブル同様、「猫ブーム」が崩壊すれば、捨て猫が増える可能性もあるのだから。

駅 義則 東洋経済オンライン編集部

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えき よしのり / Yoshinori Eki

1965年、山口県生まれ。1988年に時事通信社に入社し、金融や電機・通信などの業界取材を担当した。2006年、米通信社ブルームバーグ・ニュースに移ってIT関連の記者・エディターなどを務めた後、2015年9月に東洋経済オンラインのエディターに。現在の趣味は飼い主のない猫の里親探し

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