注意!稼ぐ男にとって結婚は「危ない契約」だ 法律と裁判を知れば、リスクが見えてくる

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冒頭のエピソードの男性は、妻が完全に無収入だったため、別居していても月に16万〜18万円を支払う義務が発生してしまった。弁護士のアドバイスから逆算すると、男性の収入は1000万円を超えていたことになる。妻にとっては完全な不労所得。悪くないどころか、相当にいい額だろう。まさに「夫はATM」を地で行く状況になってしまった。

簡易算定表を見ると、夫の年収が2000万円で妻が無職(専業主婦)であれば、妻は月に26~28万円を受け取ることができる。一方、年収が350万円であった場合、請求できる金額は4~6万円と一気にお小遣いレベルになってしまい、それだけで生活することは難しい。

夫が高収入だと、専業主婦になって優雅に高いランチを食べ、エステに行って贅沢ができるとか、そういう問題だけではない。収入の高い相手と結婚契約を結ぶことは、将来的に2人の関係が破綻することを想定しても、自身の生活に対する有効な保険として機能するのだ。

子供がいる場合であれば、通常女性は働くことが難しくなるため、こうした権利があるというのも納得だ。しかし、子供もおらず、別居までしているというのに、「お互い成人した大人であるにもかかわらず、単に結婚しているというだけで、所得の高い方が所得の低い方を養い続けなければいけない、という考え方はおかしい」(藤沢氏)という意見に、共感する人も少なくないだろう。

自分が多く収入を稼いでいれば、それに見合っただけの生活レベルを、配偶者にも保障すべきであるとする考え方は、少なくとも同居して相互に生活を助け合っている場合だけにするべきではないだろうか。

稼いでいる女性もリスクにさらされる

また、日本国憲法の下では男女は平等で(憲法14条1項)、夫婦は「同等の権利を有する」(憲法24条1項)から、男女が逆になっても同じ事態が起こりえる。つまり、高収入を得ている女性が、稼ぎが自分より少ない男性と結婚すれば、別居した場合は算定表にしたがって金銭を払う義務が出てくるのである。

かつてはこうした状況は本当にレアケースだったが、現代では女性の社会進出も進んで十分あり得る話だ。こう考えると、制度への違和感は益々大きいものになる。

都内で取材に応じる藤沢数希氏

「今の結婚制度を前提にすると、ある程度の収入のある男性と結婚できたほんの一握りの女性だけが、限りある利益を独占する構造になってしまいます。一方 で、そうした男性と結婚できなかった女性は、相手が稼がないリスクを考えると結婚を躊躇ってしまうのは当然のこと。文化的な制約から、正式な婚姻をせずに子供を産むことは依然としてタブー視されているし、生涯子供を産まない、という選択に追い込まれる人はどんどん増えてしまう。少子化問題の本質もこれなのではないでしょうか」(藤沢氏)

もちろん、女性が結婚を決める要因は相手の金銭だけではないが、無意識に多くのウェイトを占めていることは事実。しかも、法制度の内容を知ってしまうと、そうした考え方には裏付けがあるということが理解できてしまうだろう。

こうした歪みが生じる原因は何だろうか。

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